「クレジットカード審査の通過率100%を目指す」をテーマとした専門サイト
著:フミコフミオ
僕はフミコフミオ、不真面目な中年男性だ。
会社員の傍ら十数年間にわたってインターネットで悪文を垂れ流してきたので、奇特な方なら僕の名を耳にしたこともあるかもしれない。
そんな僕に、ヒト間違いとしか思えないけれど、どういうわけか「クレジットカード」をテーマにひとつ文章を書いてもらいたいという依頼が舞い込んだので、こうした文章を書いている。
一応、社会人なので、クレジットカードは所持しているが、月末に使用明細を妻にチェックされる悲しい現実が存在するため、日常生活のほとんどを現金払いで済ませている。
私事で大変申し訳ないが、最近、ミニ四駆をはじめた。老後の趣味というやつである。
手先を使うとボケ防止につながると考えたのだ。四十代半ばの僕はすでに老いとの戦いのゴングは既に鳴らされている。
もし、ミニ四駆を分割払いでゲットし、月末の使用明細で妻に露見したら…「いいトシしてミニ四駆ですか…」
「そんなものより早く自動車税を支払ってください」と詰問されるのは目に見えている。
つまり、使用明細を恐れてクレジットカードを使うのをためらってしまう僕は、クレジットカード・ユーザーとしては3流なのである。
そういった前提条件を考慮・忖度してこの文章を読んでいただければ甚だ幸いである。
先に述べたとおり僕はJCBのクレジットカードを所持している。
僕がクレジットカードを持つようになった理由は、利便性やカード会社の営業努力の結果といった現実的なものではなく、「大人になるため」という曖昧かつプリミティブなものである。
遥か遠い昔の話になってしまうが、大学生の頃、アルバイトをしていたソバ屋に女子大に通う女の子がいた。
名前が出てこないのは記憶力の減退や若年性痴ほう症のためではなく、単純に僕がフラれてしまった女性、
あるいは相手にされなかった女性の名前は綺麗さっぱり忘れるようにしているからである。
だが、呼び名がないと進行させにくいという大人の都合上、以降その女の子のことは山子ちゃんと呼ぶことにする。
山子ちゃんは大学の探検部に所属していた。
未開の地に向かうためだろうか、ときどき山子ちゃんはそば屋に顔を出さなくなるときがあった。
山子ちゃんのシフトを埋めるために僕とその他アルバイト仲間は苦労させられたのを今でも覚えている。
普通なら「女冒険野郎ザケンナヨー」と怒りを爆発させるところだが、
布面積がきわめて小さいタンクトップから浅黒い肌を露出させた健康的なエロティック姿でそば屋の暖簾をくぐってやってくる彼女の姿を見ると、
「まあいっか」
となってしまうボンクラな僕なのであった。
当時も現在もキチっとしてないと嫌な性分であるが、タンクトップからブラ紐がズレて、コンニチハしている状態を眺めるのは嫌いではない。
ギャルにタンクトップでクネクネされれば世界中の紛争は解決するのではないかと。
山子ちゃんから「お金を貸して」と言われたのは、記憶に間違いがなければ大学2年の夏の終わりだったはずだ。
金額は数万だったが、時給800円で働く貧乏な大学生にはちょっと手の届かない金額だった。
「もし1ヵ月のバイト代を山子にギブしたら、彼女から何をテイクできるだろうか」
タンクトップをテイクできるだろうか。
ブラ紐に指をかけさせてもらえるだろうか。
山子ちゃんは探検に必要な道具をそろえるために金が必要だった。
僕がバイト代と山子ちゃんのタンクトップとチラ見えブラ紐との間で悶々としている数日間のうちに彼女の問題は解決してしまう。
一年前までそば屋でバイトしていた先輩に金を借りたと彼女は教えてくれた。
社会人一年生のその先輩は、彼女の買い物を己のJCBクレジットカードで支払ったのである。
「やっぱ大人は違うよね」という山子ちゃんの言葉を聞いたとき、ひどく悔しかったのを覚えている。
その後、その先輩と山子は付き合うようになった。
「もし、あのとき、餓死するのを恐れずに、金を出していれば、もし、クレジットカードがこの手にあれば…」
彼女の名前は忘れてしまったけれど、そのときの後悔は今も僕の心に深く刻まれている。
先輩と山子は数年後、モメにモメた末、別れてしまった。
マネーが出発点の付き合いなんて、まあ、そんなもんだろう。
社会人になった僕は、山子の反省をふまえ、タンクトップを着たギャルからの要請に即座に対応するために、クレジットカードを作った。
手持ちの現金がなくても買い物や飲み食いができる、その便利さと「支払いはカードで」と口にするときの大人感がたまらなかった。
山子のタンクトップからチラ見していたブラ紐に数年遅れで手が届いた気がした。
新卒で入った会社の経理部にひとり僕好みのセクシーな女性がいた。
彼女の名前も先述のルールに則って僕は覚えていない。
不便なので彼女のことは、金好経理ちゃんと呼ぶことにする。本名もこんな語感だったような気がする。
金好経理ちゃんは色気の権化だった。
会社の、地味すぎるモスグリーンの制服はむしろ彼女のエロスを強化しているように僕には思えた。
僕はキチっとしていないと嫌な性分だが、今も昔も、気が緩むと無防備にも口が半開きになってしまう女性が好きだ。
金好経理ちゃんは「そういう」女性だったのだ。
どういうきっかけで彼女とお酒を飲むことになったのか覚えていない。
自分にとって都合の悪い記憶は出来るだけ忘れるように努めているからだ。
会計の際の苦い記憶。僕は会計を済ませようとした。
もちろん金好経理ちゃんの分もご馳走するつもりだった。
大人になった僕は彼女の前で店員に「支払はカードで」とクールな感じで言った。
店員の差しだした支払いトレイにカードを置いた。何事もなく無事に会計を終えた。
何事もなかったはずだった。二人きりのエレベーターの中で僕は彼女の言葉に驚かされた。
僕が期待していた言葉たちではなかった。
彼女の口から飛び出してきたのは「あのカード、子供みたい」という衝撃的なものだったのだ。
酔いがまわっていたというのもある。
だが、一方で酔っ払っているからこそ出てくる本性というものもある。
彼女は僕のカードを嘲笑った。大人じゃない。子供だと。
当時僕が使っていたカードは、具体的な会社名とカードの種類は、大人の都合上明らかにすることはできないが、
世界中で愛されているコミックキャラクターとその仲間たちがプリントされているファンシーなカードで、
僕はたいへん気に入っていたのだけれど、汚らわしいソウルを持っていることが明らかになった金好経理女史の人生観によれば、それは子供っぽいものだったようである。
クレジットカード・イコール・大人だと思っていた僕は、カードの中でも大人と子供が存在するという過酷な現実に打ちのめされてしまった。
大人になったはずの僕は大人になりきれてなかったのだ。
それなりのお店でたいそうな料理をごちそうしてこの仕打ち。
現金で支払っていたら、財布の中を見ては飛んでいった一万円札を想っては涙をこらえるところだけれど、カード払いのおかげで辛すぎる現実を少しだけ忘れることが出来た。
それから20年もの歳月が流れたけれど、カード払いのおかげで人生におけるハードな局面をなんとか生き抜いてこられた。クレジットカードには心から感謝している。
僕は勘違いをしていた。クレジットカードを持てば無条件に大人になれるのではないのだ。
クレジットカードとは、大人になった僕たちの小さいが心強い相棒、一緒に泣いたり笑ったりしてくれる仲間なのだ。
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色々な意味でやわらかい会社員。
サラリーマンのロックロールな日記も書いています。
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