2018年6月、「画像がお金に変わるアプリ」が一躍有名になったのを覚えていますか?
そのアプリの名は「ONE(ワン)」。
あまりの人気で一時買い取りがストップするほどのアプリを作ったのは、社員わずか20人のスタートアップ・WED株式会社です。
2019年から2020年にかけて資金調達や新会社設立などを進め、次のステージへ進もうとしている同社は、お金の未来をどのように考えているのでしょうか。
同社Principal / CEOの山内 奏人さんにお話を伺いました。
写真撮影をちょっと楽しくするカメラ
―本日はよろしくお願いいたします。
まずは、ONEアプリの概要を教えていただけますでしょうか。
ONEは「画像をお金に変える」というコンセプトの画像買取アプリです。
買い物のレシートや、それ以外にも保険証券や自動車の注文書など、撮影できるものすべてをユーザーに撮影してもらって、その画像を収集・買取しています。
―収集する画像はレシートだけではないのですね。
そうですね。
画像収集を依頼してくるクライアントによって利用用途は様々なので、画像を購買のデータとして活用するだけではなく、AI(人工知能)が読み込むような機械学習用のデータとして使うような場合もあります。
レシートをポイントに交換できるようなサービスは他にもありますが、それらを使っているユーザーは女性の主婦層がほとんどです。
その点、ONEはユーザーの半分が男性なのは特徴的かなと思います。
―なぜ、このようなアプリを作ろうと思われたのですか?
ONEはカメラアプリの感覚で作っているのですが、カメラはコモディティ化したものじゃないですか。
基本的には、いかに情景を画質良く記録するか、というのがカメラにおける美学ですよね。
それは別にあまり面白くない……というとカメラを作っている人たちに失礼ですが、カメラによって生活が変わったり、今までと物事の見え方が変わったりする、みたいなことがあってもいいんじゃないかなと思って。
そういう逆説的な考え方から始まったプロダクトですね。
日本中の1億ぐらいの人たちが、みんな常時スマホでカメラを持ち続けている状態は革命だと思っています。
でも、それだけでは何も変わってない。カメラを持っているだけでしかないんですよね。
カメラを持っていることによって、もっといろいろなことが変わった方が面白いな、と思ってやっている感じです。
―ONEは2018年6月にリリースして、その日のうちにAppStoreのランキングで1位になりました。ニュースメディアでも大きく取り上げられていましたよね。
僕らが想定していたことがダイレクトに伝わったのかな、と思っています。
カメラアプリはたくさん出てきていますが、僕らは「写真を撮る」行為をちょっと違うものにたぶん変えられたのかなと思っていて、ONEが伸びたのはそれが要因だったんじゃないかなって思います。
コモディティなものを面白く、エモくする
―ONEをはじめとするプロダクトを作る時、山内さんはどんな部分にこだわっているのですか?
僕は個人的に、コモディティ化したものを非コモディティに持っていくことが得意だと思い込んでいますね。
先ほどお話ししたカメラもコモディティ化したものだし、「写真を撮る」という行為自体も一般的になっていますが、それをどう面白くするか? ということを常に考えています。
―「面白くする」というのを大切にされているのですね。
ONEのアプリでも、画像を買い取る金額には「1円~10円」のように幅を持たせています。
何を何回送っても同じ金額……というよりは、ものによって違ったほうがゲーム感覚で楽しいじゃないですか。
僕は、ゲームからインスピレーションを得ている部分がわりと多いので、やっぱり面白いこととかワクワクとか、そういう価値観がすごく好きですね。
例えば、「スーパーマリオオデッセイ」とか「どうぶつの森」といった箱庭型のゲームがありますよね。
あのような体験を、日常的に自分が暮らす街の中で実現できたら面白いな、と思って作ったのが「PREMY」でした。(月額3,980円で、映画館・美術館などの入館料が1,000円引きになる招待制サービス。2020年4月よりサービス休止)
あと、最近思っているのは「情緒と倫理」と言っているのですが、情緒的でありながら倫理的である、というようなプロダクトを作り続けていくのが、中長期的に僕がやっていくことなんじゃないかなって思いますね。
―「情緒」というのは面白さ・ワクワクにつながる部分でしょうか。
「感情を揺さぶる」という言葉のほうが近いです。
その感情がポジティブなものである必要はありませんが、たとえネガティブな感情であっても、自分が新しい発見をできるという意味で、感情を揺さぶられる体験をもっとしっかりデザインしていきたいなと思いますね。
でも、その中で自分の軸、倫理観みたいなものをちゃんと見出していくっていうのはなんか大切なことだなと思います。
今までは、プロダクトの作り手側から受け手に届くまでの間にいろんな人がいたり、いわゆるお役所みたいなものがあったりして、倫理観のないプロダクトは淘汰されてきたんです。
今は、僕らが作ったものがそのままダイレクトにユーザーに届く時代になったので、倫理観、人として生きるべき道みたいなものを作り手側が圧倒的に考えなければいけなくなってきていると思います。
逆に言うと、ある程度情緒的なものでなければ使われなくなってきています。
お金稼ぎのために作ることは悪いことではありませんが、戦略とか戦術だけのプロダクトって、「エモさ」みたいなものがかけらもなくなってしまうので、結局ユーザー側から見透かされるんですよ。
なので、倫理と情緒っていうのは僕の中で何よりも重要になってくるキーワードかなと思います。
自分が満足できる金融サービスを作りたい
―2020年2月には、新たな金融体験を提供する「Q株式会社」を設立されました。
山内さんは、WEDやQ株式会社を通してお金や未来をどのように変えていきたいですか?
お金に関して言うと、僕はお金みたいなものが嫌いで、「お金による呪縛から解き放ちたい」って言っていたことがあります。
「どこに行く?」とか「何を食べる?」といったことを考えるときに、結局お金が関わってくるじゃないですか。だからあまり好きじゃなくて。意思決定とお金を切り離したいんですよね。
―新会社では、FinTech分野へ挑戦するのですよね。
将来的には銀行業も視野に入れてunderbanked層へのサービス提供を計画しているのですが、結局何がunderなのかというと、ユーザー自身の満足度がunderなんですよ。
僕自身、好きなプロダクトはいくつかありますが、僕はそういうもの以外には満足してないんですね。
僕以外にもそういう人がたぶん多いと思っているので、金融領域でユーザーが満足できるプロダクトがあってもいいよね、と思っています。
―現在の金融業界のプロダクトは、どういう部分がunderだと思いますか?
もう全てです。 デザインから何から、本当にほぼ全てunderですよね。
例えば、与信枠に余裕があるのに、支払サイトが2ヵ月だから枠いっぱいまで使えない……みたいなことですね。
特にクレジットカードとかで、こういうのが多いなと思って。
変えたい、というと大げさかもしれないですが、そういうことをいちいち気にせずに済むようなプロダクトがあってもいいのかな、と思いますね。
先ほどコモディティの話をしましたが、まさにクレジットカードもコモディティなものだと思います。
それをもっと面白くできないだろうか? というのを考えているところです。
―最後にお伺いします。山内さんにとって「お金」とはどういうものですか?
「血液」ですかね。 お金はサステナビリティのためにあると思っていて、それ以上でもそれ以下でもないと思います。
例えば、ディズニーランドがもたらす体験は「ユートピアみたいなものがいつ来てもそこにある」ということなんですよね。
でも、ディズニーランドが1日で閉まっちゃって「ちょっとお金がなかったのでやめます」ってなったら、それはもうディズニーランドじゃないですよ。
僕らがビジネスモデルを作るのも同じで、プロダクトや体験を提供し続けるためです。
そのプロダクトが1日しか使えなかったら、存在する意味がないじゃないですか。
個人でも、「ご飯食べたいな」「もの買おうかな」って思ったときに、資本主義社会の中で生きていく以上はお金が必要になるので、お金は血液だなって思っています。