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インタビュー
成年年齢引き下げでクレジットカードはどう変わる?日本クレジット協会 與口真三理事・事務局長にインタビュー

日本クレジット協会 與口真三理事・事務局長にインタビュー

これまでは20歳になったら成年(成人)とみなされていましたが、民法改正により2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられました。

この改正に伴い、18歳でもクレジットカードを本人の意思のみで申し込めるようになります。

18歳、19歳の人が本人の意思のみでクレジットカードに申し込めることで、どのようなメリットやデメリットがあるのか、そして「契約」「信用」とはなにか。

日本クレジット協会理事・事務局長の與口真三氏にインタビューを行いました。

與口 真三氏プロフィール

與口 真三

一般社団法人日本クレジット協会 理事・事務局長
一般財団法人日本産業協会 監事
前身の社団法人日本クレジット産業協会から30年以上にわたりクレジット業界の振興や課題解決に携わっている。
これまで、産業構造審議会専門委員、金融審議会専門委員などを務める。

1. 成年年齢引き下げに伴う変化

――これまで18〜19歳はクレジットカードの申し込みに親権者の同意が必要でしたが、民法改正後は成年(成人)年齢引き下げにより、不要になりました。
親権者の同意が不要になることのメリットとデメリットを教えてください。

民法改正前は18歳から19歳の方については、親権者にも取消権がありました。

一般的にクレジットカード会社としては、あらかじめ親権者の方にクレジットカードを持たせて良いか確認し、同意をいただけた場合に契約をしていました。
親権者の同意が不要になると、親権者の方に見守ってもらっていた部分がなくなります。

それを親権者にいちいち同意をしてもらわなくてもひとりで自由に契約できると思う人にとってはメリットと感じ、全部ひとりで判断して責任も負わなければならなくなったと思う人はデメリットと感じるのかと思います。

なお、クレジットカードをつくるためには審査がありますので、成年になったからといって誰でもカードを持てる訳ではありません。

――現金で物を買う、賃貸で部屋を借りる、就職する、クレジットカードを作る・使う。
これらはすべて「契約」ですが、未成年の契約と成年の契約で最も異なる点を教えてください。

一般的には未成年者と成年で最も異なるのは、行為能力が制限されているかいないか、ようするに単独で法律行為ができるかどうかだと思います。
例えば、未成年によるクレジット契約をはじめ、家を借りるための賃貸借契約などは、親権者等の法定代理人の同意が必要になります。同意がなくても契約そのものはできるのですが、未成年者だけで締結した契約は後から法定代理人が取り消すことができます。

ただし全てがそうかというと、そうでもありません。
現金で物を買うのは売買契約ですが、未成年者がお小遣いでゲームのソフトを買うために、いちいち法定代理人の同意はいりません。
また就職のときに締結する雇用契約は、逆に本人との合意の下に本人しか締結できません。
親権者等が未成年者を強制労働させる搾取を防ぐためです。

――成年が契約後に、この契約は間違えたかもしれない、と思ったときはどうしたらよいでしょうか。

社会には様々な契約がありますので、間違えてしまったと思ったときに一律でこうしたらいいと回答することはできません。
例えば、クーリングオフ制度では、法律で契約後一定期間無条件での解約を認められます。
また、通信販売のように販売会社の特約として解約返品を認めているものもあります。そういう制度が適用される契約であれば、締結後に間違えたと思えば、解約することができます。

一方で、多くの契約では解約が認められない、解約はできるけれど一定の違約金や損害賠償が求められます。
契約をする、ということは、その契約内容に応じた責任を担うことになります。
契約をする際にはそれをしっかり理解して慎重に行う必要があります。

 

ちなみに、クレジットカード契約については、契約後にやはり必要ないと思えばいつでもカードを解約することができます。
もちろん既にカードを使っていれば、カード解約後であっても、その利用分を支払わなければいけません。

2. 安全なクレジットカード利用のために

――クレジットカードとは異なり、カードを使わずにQRコードや時計型のデジタル端末などを用いた様々な決済手段が増えています。
スウェーデンでは手に埋め込んだマイクロチップによる電子決済が広がっているといいます。
キャッシュレスの決済手段があまりに増えていて難しく感じてしまうのですが、どのような違いがあるのでしょうか。

決済手段は多様化していますが、機能としては、クレジットカードのような後払い、デビットカードのような即時払い、電子マネーのような前払い(種類によっては後払い方式もある)に分けられます。
QRコード、ウェアラブル端末(スマートウォッチなど身体に装着するコンピューターデバイス)、スマートフォンなどは、これらの機能を搭載するデバイスの種類です。
QRコードの決済にクレジットカードを紐づけることで、クレジットカードのデバイスとして利用することもできますし、あらかじめチャージすれば電子マネーとしても使えます。

――支払いのタイミングとデバイスの種類で分類できるのですね。
このように多様化しているキャッシュレスのメリットを教えてください。

日本の政府は、キャッシュレスの比率を2025年までに40%に、将来的には80%にしたいという考えを示しています。
国はなぜキャッシュレス化を目指しているのかというと、現金を流通させるためには貨幣の鋳造、紙幣の印刷、現金の輸送、保管・管理、CD/ATMの設置・メンテナンス、店舗等での釣銭の準備、売上の清算、銀行への預け入れなど社会全体で膨大なコストが掛かっています。
一定以上キャッシュレスが普及すればそれらのコストが大きく削減でき、そのコストを別の経済発展等に投資することができると考えられています。

また、キャッシュレス化することで店舗のレジ作業を軽減し、作業を効率化するとともに人手不足の解消につながることも期待されています。
MaaS(Mobility as a Service)のように様々なサービスを結び付けて人の動きをかえるような新しい動きを後押しする仕組みとしてキャッシュレスは不可欠なものとされています。

さらに、今は新型コロナウイルスの為に訪日を制限されている外国人に関して、日本は現金社会でキャッシュレス決済が使えるところが少ないことが不満として指摘されていました。
このような不満に対してキャッシュレス環境を広げることでより活発な消費が期待されています。
そして、キャッシュレス決済が広がれば、それに付随する購買データ等が蓄積されそのビッグデータを用いたFintech事業者などによる新たな産業振興も期待されているところです。

――キャッシュレスが一般的になると、企業は正確な記帳、行政は正確な徴税が可能になりますね。

お隣の韓国はキャッシュレスの先進国です。
その普及の元々の理由は、国が徴税のために売り上げを管理できるよう法律でキャッシュレス決済を義務付けたことにあります。
キャッシュレスシステムによる会計システムとの連携なども、業務の効率化、合理化につながるメリットの一つです。

――キャッシュレス化のデメリットもあるのでしょうか。

デメリットもあります。
ネットワークに不具合が生ずると利用できなくなる、データが改ざんされるおそれがあるといった、必ずしもキャッシュレスに限りませんがデータ社会におけるそもそものデメリットはあると思います。

また、「デジタル・ディバイド」などはよく指摘されますが、例えばキャッシュレスの手段がスマホに限定されるということであれば、スマホを持っていない、持ちたくても使い方が分からない人たちは、キャッシュレス社会から取り残されることになります。

しかしキャッシュレス決済の手段は多様です。
スーパーマーケットのプラスチックカード型の電子マネーは、高齢者にとっても小銭をいちいち財布から取り出して数えなくてもいい、むしろ現金より便利な支払手段として受け入れられています。
それに現金が法定通貨である限りキャッシュレス決済が普及しても、現金が全く使えなくなるわけではありません。

――高齢者にも便利だと受け入れられているシーンがあるのですね。
一方で利用状況を把握されてしまうことに抵抗感を持つ消費者の方もいるのではないでしょうか。

ある程度の利用状況が把握されることで、様々なサービス提供につながるメリットにもなります。
一方で、自分の購買行動が把握されることに漠然とした不安を抱く利用者にとってはデメリットと受け取られる可能性があります。

今後さらにキャッシュレスを普及させていくためには、利用目的の明示や同意の取得などを通じて、消費者ひいては社会の理解を醸成していく必要があるのは言うまでもありません。

――最近は新型コロナウイルスの影響でアルバイトのシフトが減ってしまう、職を失うなどして金銭的に苦しい状況に陥る若者の増加が問題となっています。
金銭的に苦しい若者が安全にクレジットカードを活用する方法があれば教えて下さい。

残念ですがクレジットカードは支払能力があることを前提としています。
金銭的に苦しいというのが、支払能力が落ちていることを意味するのであれば、クレジットカードを活用することで状況を改善するのは難しいと思います。

――クレジットカードは基本的に支払い能力がある人のためのもの、ということですね。

基本的にはその通りですが「苦しい状況」の内容にもよります。
今は苦しいけれども別のバイト先が見つかって来月には定期的な収入が見込めるような状況であれば、少し話が違います。
1回払いで一旦繰り延べをする、あるいは分割払いやリボルビング払いを利用して家計の平準化を図ることで、状況を緩和できるかもしれません。

ただし、注意すべき点ですが、生活が苦しくても、返す当てのない状況で借金などをしてはいけません。
ほとんどの人は結局返すことができずに、また借りる自転車操業に陥ってしまいます。

――若者のなかには、よく知らないままクレジットカードのショッピング枠を現金に換える人もいるといいますが、この「ショッピング枠の現金化」についてはどのようにお考えですか。

「ショッピング枠の現金化」はクレジットカード会員規約でも禁止されている行為です。しかも、現金化は高額な手数料が引かれるため状況をさらに悪化させることになります。
「ショッピング枠の現金化」は絶対に利用してはいけません。

 

どうしても生活が立ち行かない状況になったら、自分だけでなんとかしようとせず、周りの人に相談する。
そういう人が居ないなら、若者であろうがためらわず身近な行政窓口を頼るべきです。

――非対面決済の増加により不正利用が過去最悪だとも報じられています(2022年3月31日公表、(一社)日本クレジット協会 クレジットカード不正利用被害の集計結果より)。
わたしたち消費者にはどのような対策ができるでしょうか。

クレジットカードの不正利用のほとんどが、ECなどの非対面取引で発生しています。
最近多いのが、フィッシングと呼ばれる手口です。
この手口は消費者を実在の有名企業を名乗る偽のメールやSMSで架空のサイトに誘導し、クレジットカードの番号、有効期限、セキュリティコードなど決済に必要な情報を入力させ窃取し、その窃取した情報を使ってECサイトから不正に商品等を騙し取る手口です。

フィッシングから身を守る方策は、

    (1)覚えのないメールやSMSは開かない。
    (2)もしサイトにアクセスするならメールやSMSに添付されているアドレスからではなく、正規のサイトからアクセスをする。
    (3)クレジットカードの利用明細は必ず確認する。
最後の利用明細の確認は防止というより、不正利用されてしまったことを見つけていただくための手段です。
使った覚えがない利用があればすぐにクレジットカード会社に連絡をしてください。
ご本人に過失等がなければ不正利用の被害はクレジットカード会社が負担することになります。

3. 「契約」と「信用」について

――スマートフォンを利用したWEB経由での契約をはじめ、様々な方法で様々な契約が可能になり、契約の敷居が低くなっています。
この点について注意すべきことはありますか?

どのような媒体で契約するかで、契約内容は何も変わりません。
店頭で、クレジットカードの説明を受けて書面で契約しても、スマートフォンで自らカード会社のサイトにアクセスして契約内容を確認して申し込みをしても、同じクレジットカードであれば同じ契約内容になります。

ただ、媒体による特性はあると思います。
スマホの長くて細かい契約内容文書をスクロールしてしっかり読む人は少ないでしょうし、わざわざプリントアウトもしないでしょうから手元に紙の証拠も残りませんよね。

それでも対面の契約と同じ契約の意識を持たないといけません。
まずは冷静になって、時間をおく。
それで本当に欲しいのか、本当に必要か、考えることが大切です。

――「クレジット」という英単語の意味の中には「信用」の意味もあります。
成年にとって「信用」はどのような意味を持つとお考えでしょうか。

クレジットの場合の信用は、クレジットカードを利用したらその利用代金を後から約束通り支払ってくれること、すなわち支払能力を意味しています。
アメリカなどでは、クレジットヒストリーという言い方をしますが、消費者と銀行との取引記録が信用情報機関に登録され、その記録がその人の「信用力」を表すことになります。

クレジットカードの限度額を上げてもらうためにも、自動車ローンや住宅ローンを組むためにも、長年にわたって銀行と健全な取引を続けて来た証明として、このクレジットヒストリーが必要になります。
もし延滞や貸倒れを起こしてしまえば、クレジットカードが持てない、ローンが組めない、など日常生活に大きな支障が生じます。
日本では、あまりこの信用を意識することはないかもしれませんが、米国などではこの信用が人生に大きな影響を与えると言われています。

―なぜ日本はアメリカより「信用」への意識が低いのでしょうか。
クレジットカードの浸透が遅かった以外に考えられる理由はありますか?

アメリカと日本では「信用」のとらえ方が違うのです。

例えば、アメリカでは16歳で運転免許をとれるので、そのときに「オイルカード」と言って、ガソリンスタンドで使うために数十ドル程度が限度額のカードを持ちます。
オイルカードで高校や大学時代に「使って返して」、を繰り返す。
そして本格的に社会に出るときに普通のクレジットカードが発行してもらえる程度のクレジットヒストリーが積まれています。
アメリカは「使って返して」を繰り返すことでクレジットヒストリーが積まれて、ゴールドカードなどが発行してもらえるようになる。

日本は、各社により審査の基準が異なるので一律には言えませんが、利用履歴も見ているけれど、現在の勤務状況、収入を重視してカードを発行する傾向にある。
アメリカと比べると転職が少ないことも原因でしょう。
日本は申し込み時点のステータスを重視してクレジットカードを発行している。
日本とアメリカではそこが違いますね。

――これまでの支払履歴を重視するアメリカと、現時点でのステータスを重視する日本、ということですね。

しかし、日本にもクレジット業界、銀行業界、貸金業界にそれぞれ信用情報機関があり、互いに情報交流を行っています。
クレジット契約においては、クレジット業界の信用情報機関への照会や情報登録が必要とされています。
もし延滞や貸倒れを起こしてしまえば、あくまで与信の際の参考情報という位置付けではありますが、基本的にはアメリカと同じことになりかねません。

「信用」は目に見えない価値であり、あなたの財産です。

――クレジットカードに限らず、信用を築く方法について、お考えを教えてください。

「信用」といっても社会生活の中ではいろいろな意味合いがあると思いますので、それらを築くためにもいろいろな要素が必要だと思います。
あくまでその方法の一つに過ぎませんが、「決めたことを守る」ことが、信用につながる方法だと思います。
法律や契約、勤務先や地域の決め事、あるいは家族や友達との約束ごとなど、社会には様々なレベルでいろいろな決め事があります。それらをできる限り守ることで、信用が得られていくのではないかと思います。

一方で、決められたことを言われるままに守ればいいと言うつもりはありません。
その決めたことが守るにふさわしいものかどうかは常に判断し、場合によっては直すことも当然必要です。
例えば身近なところでは、学校のブラック校則や勤務先のブラックなルールなど、おかしいと思う決め事があれば変えていく必要があると思います。

――信用を失ってしまっても、もう一度やり直す方法はあるのでしょうか。

信用するかどうかは相手が判断することですので、信用をもう一度とりもどせるかどうかは相手によると思います。
信用は一旦失うと取り返しがつかない、それほど大切なものだとあらかじめ認識しておくことが必要です。
信用を取り戻すためには、もう一度初めから信用してもらえるように、一歩一歩やり直して行くしかないのではないかと思います。

―クレジットカードで延滞など事故を起こしてしまった場合はどうなりますか?

クレジットカードの場合には、信用情報機関で交流される延滞や貸倒れの情報の登録機関は5年間です。新たな延滞や貸倒れを起こさなければ最後に登録されてから5年後には情報が消えます。
あくまで与信をするかしないかを決めるのはクレジット会社ですが、信用を取り戻すきっかけになるのではないかと思います。

――クレジットカードにおける「使って返す、を繰り返す」信用と、クレジットカードに限らず「決めたことを守る」信用は、同じことだと実感しました。
キャッシュレスが広がっても契約の重みは変わらないこととも通じるように思います。
本日はたくさんのお話をありがとうございました。

企画・取材・編集

飯田 光穂

WEBメディア「NOISIE(ノイジー)」編集長。
産業カウンセラー/保健師で脳腫瘍サバイバーのフェミニスト。
主な関心はジェンダーと労働と心身の健康。