著者:小河 俊紀(おがわ としのり)
はじめに
この連載は、9回目を迎えました。
前回は、「富山の売薬商人薩摩組が、実は忍者の遺伝子を持っていた。幕末にその力を再起動し、薩摩藩国父 島津久光を支えて明治維新を引き寄せた」との私独自の仮説を書きました。アップロード直後、読者の方から「今回引用のあった鳴海章の推理小説“密命売薬商”が印象に残り、買って読んでみたくなった」とか、「明治維新の発火点は文久2年(1862年)の幕政改革、とする解釈が新しい」とお誉めをいただきました。
温かいご指摘に感謝します。しかし、一方で
「明治維新から関ヶ原の戦いに遡り、富山の売薬商人のルーツまで担ぎ出して、お前は結局何を言いたいのか?」と苛立つ読者もいらっしゃると思います。
そこで、これまでの執筆経過を踏まえ、今回から「物質万能主義の終焉と、マネーの未来」と題し、私なりの論理で未来のマネー像を前・後編の二回にまとめ、本稿を完結したいと思います。
時代が変わるとは何か?
徳川幕府は、戦乱の世を終わらせ、欧米列強の植民地にもならずに270年にわたる泰平の世を生み出しました。芸術・工芸・文学・建築など文化面で成熟を促し、浮世絵や和算のように西欧を超えるレベルに達したものもありました。
その幕府が倒れ、「脱亜入欧」を掲げ、近代化を急いだ明治維新(1868年)から77年間に、日本は確かに目覚ましい近代化を遂げる一方、日清・日露・太平洋戦争という大きな国際紛争が3回続きました。特に、昭和の太平洋戦争で国は焦土と化し、以降76年間新しい民主国家の道を歩んできました。明治維新以降、通算153年間で政権は何度も変わりましたし、270年近く続いた徳川幕府の卓越した統治能力にはあらためて脱帽します。
しかし、その陰で、鎖国により世界の先進テクノロジーから取り残され、さらに強引ともいえる参勤交代制度で巨額の経済的・人的負担を強いた結果、江戸後期には天保期(1830年代)の大飢饉も重なり、諸藩は疲弊し農民は重税に苦しみました。
そういうタイミングに、ペリーが嘉永6年(1853年)に黒船で突如来航した衝撃の大きさは想像に難くありません。
“泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん) たつた四杯で夜も眠れず”
しかし、それが原因で徳川政権が崩壊したわけではありません。
前回書きました通り、明治維新は島津久光が仕掛けた文久2年(1862)年の「幕政改革」が引き金でした。幕政改革当時は幕府側だった島津久光の内部クーデターと、非武士階級(庶民)である富山の売薬商人の支えが新時代を引き寄せたのです。
明治維新に限らず、政権とは常に内部から崩壊していくものです。
織田信長の政権崩壊も、腹心明智光秀の反乱が始まりでした。
天下分け目「関ヶ原の戦い」もそうでした。豊臣秀吉亡き後の五大老・五奉行という重臣の内紛から体制の内部崩壊が始まり、機に乗じて五大老の一人徳川家康が豊臣家を滅亡へ追いやったものでした。
ただ、内部崩壊に乗じて新興勢力が正義を掲げて既存勢力を高圧的にねじ伏せ、その過去を全否定することが多く、大切な人命と歴史遺産の滅失をもたらしてきました。敵を外に設定する分断と憎悪の権力闘争は、もう終わりにできないものでしょうか。
新型コロナ禍と地球温暖化
温室効果ガスによる地球温暖化が加速しています。
既に、今から100年以上前の1896年に、スウェーデンの科学者スヴァンテ・アレニウスが最初に予測したと言われます。
1700年代半ばに始まった第一次産業革命を端緒に、自由競争という弱肉強食の資本主義が勃興し、世界は物質面で飛躍的に豊かになりました。反面、自然破壊を続けた結果、大量の温室効果ガスを発生させ、世界の平均気温はこの100年で実際0.75℃上昇しました。
近年、世界各地で過酷な洪水や干ばつ、熱波、暴風などの異常気象が頻発し、甚大な被害が出ています。このまま温暖化が進むと、2030年には地球環境は修復不能な分岐点を超え、破滅への道を突き進むと予測されています。わずか、あと10年しかありません。
また、生態系の異変により昨年2020年に新型コロナのパンデミックが起きました。新型コロナウイルスは中国武漢が発生源と言われていますが、北極の永久凍土には太古のウイルスが膨大に眠っており、温暖化で凍土が溶けると、未知のウイルスが大量に漏れ出す恐れがあります。
グローバリズムの進化で、新型コロナ禍の感染拡大はあっという間でした。妙な例えに置き換えると、地球は今新型コロナという“可視化できない宇宙人の来襲”を受けているように見えます。新型コロナ禍は、世界全体の内部崩壊の予兆であり、科学的対処だけでなく、人類の意識改革(バージョンアップ)を根底から促している、と思えてなりません。
地球文明の滅亡を防ぐ「持続可能な開発目標(SDGs)」
新型コロナは、国家規模や地域・人種・地位や貧富を問わず感染を拡大し、誰彼問わず感染の恐怖をもたらしています。
今年2月11日現在、既に全世界220ケ国・地域で1億700万人を超える方が感染され、207ケ国・地域で230万人を超える方が亡くなっています。どこにいるか分からないウイルスなので、従来の常識全般が内部崩壊を始めています。
ご承知のように、人類の破滅を防ぐ為に2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」があります。新型コロナ禍で、2030年に向けてその緊急性が高まってきました。
ただ、こういうグラフだけで見ると、頭で理解できても、それは政治や大企業の対応政策の次元と錯覚し、自分個人の日常とは無関係に思えてきませんか?
ところが、新型コロナの猛威をみると、事態はもはや誰一人として無関係ではなくなってきています。人類全員の喫緊課題であり、意識革命が求められていると言えないでしょうか?
意識は連鎖する
最新の量子物理学では、「地球に起きているすべての出来事は、ミクロからマクロに至る波動の連鎖」とみています。
小さな構造が大きな構造に影響を与え、大きな構造もまた小さな構造に影響を与える
「超次元の成功法則」江本勝監修、ビジネス社。 画像共にP.281~282量子物理学では、物質的な世界の根幹には、完全に非物質的な領域(情報、確率波、あるいは意識と呼ぶ)が存在するとされています。(中略)
NASAの宇宙飛行士エドガー・ミッチェル博士は、宇宙から地球に戻る途中で、次のような結論に達しました。
「ふとした瞬間に、この宇宙に知性が備わっていることに気付いた。宇宙はある方向に向かって進んでおり、その方向に影響を及ぼしているのが、われわれなのである。この惑星の歴史に刻まれてきた創造的な魂、創造的な意思は、私たちの内面から生まれたものであり、それが宇宙にも存在し、すべては同じものであることに気付いたのだ」
この本は、何か怪しげなスピリチュアルな書籍ではありません。世界の一流量子物理学者の学説を様々に紹介した科学解説書です。
量子論を初めて知ったときに衝撃を受けない者は、おそらくそれを理解できなかったのだろう。
1992年ノーベル物理学賞受賞者 ニールス・ボーア、同書P.88最先端の量子科学は、私たち個人個人の意識が宇宙に波動を与え、影響を及ぼしていることを発見しました。実際、人の脳内神経細胞(画像左上)の構造と宇宙のネットワーク(左下)、そしてインターネット回路(右)の構造はなぜか驚くほど似ています。
東京大学大学院原子力工学を修めた工学博士で、ダボス会議のGlobal Agenda Councilのメンバーや内閣官房参与を歴任してきた多摩大学大学院 田坂広志名誉教授は、その著書「運気を磨く」(光文社)の中で量子物理学の基本を分かり易く解説しています。
我々の心の状態が、その心と共鳴するものを引き寄せる
P.33人々の心は、深い無意識の世界で、互いにつながっている。
P.57我々が「物質と思っているものの実態は、すべてエネルギーであり、「波動」にほかならず、それを「質量をもった物質」や「固い物体」と感じるのは、我々の日常感覚がもたらす錯覚にすぎない
P.77量子力学的 おカネの概念
多くの人は、五感が伝えるものが現実だと考えています。そして、科学においてもこの400年間、そうした考えが支持されてきました。私たちの五感(あるいは、五感の延長線上にあるもの)で知覚できないものは、実在しないということです。しかし、こうした現実でさえ、人間の裸眼で見た姿と、顕微鏡や原子核破壊装置を使って見た姿とでは、まったく異なるのです。
「超次元の成功法則」、P.63おカネ(現金)というと、私たちは紙幣や硬貨という可視化できる物質を連想しますが、実は「政府が保証する信用」という無形価値です。ですから、電子化されても価値自体は消えないのです。
おカネも波動です。おカネの獲得とは、その信用度の波動に応じた価値を身に纏う(まとう)ことです。ですから、本当のお金持ちとは、その波動領域が大きな人です。個人でも組織でも社会貢献実績が認知されると、磁石に引き寄せられる金属のようにおカネ(財産)が集まってきます。
心は磁石であり、支配的真理と一致するものを何でも引き寄せる
―「引き寄せの法則」の権威 レイモンド・ホリウェル博士ところが、それは固定性を持たない流動的波動なので、所有者の生活の変化に応じて絶えず変動します。正常な変動もありますが、昔から「悪銭身に付かず」という諺があるように、正当な労働の対価でない収入を得た場合、所有者の信用波動の乏しさのため、おカネは簡単に離れていきます。
おカネだけが目的になって利己的に活動すると本末が逆転し、人間の波動は狂い始めます。瞬時に巨額マネーが動く最近の金融投資市場が典型です。自分の信用を積み上げるより、弱者の信用(おカネ)を奪う過度な利益至上主義が今の資本主義の欠陥です。
(下表は、ニューヨーク株式市場で今年1月下旬に起きた米国の大手ゲームソフト企業「GAME STOP」株の乱高下です。 大手投資ファンドに対する個人投資家達の抗議売買が要因でした。)
アメリカ議会下院は、ゲーム関連小売企業の株価の乱高下をめぐって、多額の資金を運用するヘッジファンドが、個人投資家より優遇されたのではないかとして、今月18日に公聴会を開くと発表し、株式市場で利益をあげる金融業界への風当たりが強まりそうです。
2021年2月2日 NHKニュース 米「ゲームストップ」社の株価乱高下めぐり 公聴会開催へ | 株価・為替 | NHKニュース新時代の革命 「敵は、自分内部にあり!」
英国の歴史家ジョン・アクトンの言葉に「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」という名言があります。
高邁な理想と正義を掲げて華々しく登場した英雄が、長年の権力の座で傲慢となり、腐敗を始め、民衆を苦しめた事例は枚挙に暇がありません。前述のように日本の歴史もその繰り返しでした。
これは人間のもつ本質なのです。なぜなら、人間には善(正直、信頼、利他心)と悪(欺瞞、不信、利己心、)の心が同居し、自己統制ができる時に善人に、できない時に悪人に転ずる複雑な生き物だからです。ですから、人を善人か悪人かに分類する二元論では、憎悪も紛争も永久に無くなりません。
仏教では「善悪不二」として、自己内部の意識革命を説きます。
「敵は、自分内部にあり!」なのです。
もし、日常的に自己統制できる訓練をし、個性を利他的に善用できる人(仏)が増えれば、強固な平和社会が実現するはずです。
思考に気をつけなさい それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい それはいつか運命になるから
今回のまとめ
今回はここまでにします。「他人の不幸の上に自分の幸福を築くエゴイズム(物欲・金銭欲・名誉欲)」が、人類の大きな不幸です。
私は、富山の売薬を調べるうち、「先用後利」に象徴される本物の利他心=共生の思想に感動しました。顧客から「売薬さん」と親しまれ、後払いなのに、なぜ借金とは呼ばれないのかも理解しました。
新型コロナ禍は、ウイルスという可視化できないものの怖さを人類にまざまざと見せつけています。ヒトの心はさらに可視化が難しい存在ですが、もしかしたら今回引用した意識階層図のように、ウイルスに対峙できる最大の根源力かもしれません。
次回後編(最終回)では、「未来の経済構造・マネー像はどうあるべきか?」について、本稿をまとめたいと思います。
ご期待ください。