ビジネス書作家で商品開発コンサルタントをしている美崎栄一郎です。キャッシュレスについての本を書いたご縁で、すごいカードで、連載「美崎栄一郎のお金マンダラ」を始めることになりました。
この連載では、お金にまつわる話を色々と話題にしたいと思います。物事の仕組みを探求するのが好きで、歴史好きでもありますので、話がやや脱線気味になるのはご了承ください。
『Go To トラベル』は観光業の構造変化に繋がるか?
『Go To トラベルキャンペーン』が始まりました。国内旅行を支援する目的で国が補助を出すというキャンペーンです。旅行業界の活性化が目的です。
仕組みが複雑ですが、ざっくりいうと、旅行にかかる費用の半分を国が補助しますというキャンペーンです。
後手後手で、キャンペーンの内容変更や対策になっているので、実際に仕事として対応されている方は大変だと思いますが、このキャンペーンの裏側というか、本質を考えてみたいと思います。
日本という国は、高齢化が進んでおり、海外からの観光客を誘致していこうという観光立国を目指していました。ところが、コロナ禍で海外からの観光客は激減しました。今後も海外からの観光客は低水準で推移するでしょう。つまり、海外からのお客を期待できなくなったのです。
観光業の仕組みの構造変化が必要になっています。
最初の作戦として、各都道府県では自県の中の人にその近くの宿泊施設に泊まってくださいというキャンペーンを行いました。県外に移動してはいけないと言われているので、苦肉の策で編み出したキャンペーンですが、正直なところ、期待薄です。
観光は、非日常の体験をしたいために行うものです。
非日常の対価として、高価なお金を支払うわけです。高価な移動するコスト、宿泊するコストを払っても、非日常の体験を得たいから人は旅行をするわけです。とすると、近場で非日常を演出しなければ、コストを払う価値がありません。いくらキャンペーンで安くなったとしても、自宅でじっとしているのとそれほど変わらないものに対して人はお金を払わないのです。
ですから、移動が解禁されると、観光業は盛り返すことができるでしょう。その勢いを加速するために、行われるのがキャンペーンです。
期間が決まっていることで、その特典を逃さないという気持ちが生まれます。
夏休みという観光業のかきいれどきに合わせて、キャンペーンをスタートするのは、そのためです。お金を平等に観光に関する産業に振り分けることができるように、旅行代金35%割引、9月以降に15%相当の地域共通クーポンも付与という複雑な仕組みも導入しています。
地域共通クーポンは、その旅行の際に町で落とすことを目的としたクーポンです。強制的に予算を振り分けるために発行されるクーポンですが、オペレーションは複雑になります。お役所仕事的な雰囲気がします。物理的な紙を発行するとすると、それも大変です。9月にならないと詳細はわからないですが、既存の商品券などを流用したほうがいいんじゃないかと個人的には思います。
また、このクーポン券の発行にもマスクの配布のときと同じような発注先の疑問なども出てしまいそうですけど。紙のクーポンをやめて、QRコード決済各社に依頼してしまえば、地方観光地のキャッシュレス化も進むはずです。でも、無駄に紙の券が配られそうな気もします。そうならないことを祈りますが。
観光に『移動』が欠かせないジレンマ
観光産業は、時間を売る商売です。
ホテルは1日の宿泊を売り、新幹線は3時間、飛行機は1時間という移動時間を売るわけです。つまり、お客の入らない時間があるとその分はどんどんに損失になるわけです。
サービス業ですから、人件費はかかります。接客するにも輸送するにも人が必要ですが、お客さんの有無に関わらず、費用は出ていきます。
『Go To トラベルキャンペーン』は、そのための方策だったわけで、なにもコロナ禍を拡大したいわけではないので、各自が適切に判断して行動すべきでしょう。
時間を売る商売をしている商売はたくさんあります。私のようなコンサルタントも時間を売る商売です。ですが、移動を伴う時間ではありませんから、オンラインでも、メールでも時間を売ることは可能です。しかしながら、観光というのは、非日常の時間を売ることで価値を生んでいるので、移動が伴うほうが意識が切り替わり、非日常感が得やすいわけです。
つまり移動のない観光業はありえないですが、移動が制限されつつづけていると、時間だけが過ぎ、お金を稼ぐことができないのです。
東京に住んでいる人が横浜に行けば、少しは非日常感が得られるかもしれません。千葉の外房の海に行けば、非日常感が得られるかもしれません。より遠い、沖縄が人気なのは、その海の美しさで、非日常感を感じれるからです。海を見るだけであれば、東京湾でも見れるわけですが、東京の近くの海では、沖縄の海までの高揚感が得られないでしょう。
今後は観光がより高価なものになるかも
今回は、ステイホームの期間が長かったので、その反動で『Go To トラベルキャンペーン』が、うまく機能すれば、観光業の収益が改善するはずです。ただ、開始する時間が遅くなると、その分、時間が無駄に消費されてしまい、倒産してしまう会社も増えるでしょう。応援する気持ちがあるならば、時間は消費してはいけないのです。
とはいえ、感染が拡大することにも留意しなければなりません。そのため、東京都に在住の人間はこのキャンペーンから除外されました。急に感染者数が増えたというのがその理由です。その方針の是非は、感染症の専門家でないので私はわかりません。
ただ、ビジネス的にいうと、このキャンペーンの除外でキャンセルした人の補償を国がするのは間違いです。キャンセルではなく、50%の補助は出し、お金は支払ってもらい、旅行を延期にしてもらうことです。そうすれば、先にお金を得ることが観光業ではできます。
観光地という資産はずっと残るわけですが、それに関する観光産業は時間を売るビジネスですから、待ってはくれないのです。
旅行好きの私としては、観光に関わる会社がたくさん生き残って欲しいですが、キャンペーンの効果が薄ければ、経営難の会社が増えると低価格では成り立たなくなります。
つまり、より旅行や観光は高価なものになってしまうでしょう。そういう意味でもお得に旅行できる機会は、この『Go To トラベルキャンペーン』が最後になってしまうのかもしれません。本当にそうならないようにしてほしいなぁと切に願います。