ビジネス書作家で商品開発コンサルタントをしている美崎栄一郎です。キャッシュレスについての本を書いたご縁で、すごいカードで、連載「お金マンダラ」を始めることになりました。
この連載では、お金にまつわる話を色々と話題にしたいと思います。物事の仕組みを探求するのが好きで、歴史好きでもありますので、話がやや脱線気味になるのはご了承ください。
メルペイの誕生と戦略上の失敗
メルカリがメルペイというアプリを出して、PayPayなどの陣営に対抗しました。ですが、玉砕して大赤字を計上していました。
メルカリというフリーマーケットアプリで貯めたお金がリアルのお店でも使えるという組み合わせは便利です。これがメルペイです。コンビニやスーパー、ドラッグストアなどでQRコードで支払えるだけでなく、ドコモのiDのシステムとも提携しているのでiDが使えるお店ではどこでも使うことができます。要らないモノを売ったお金が、どこでも自由に使えるのは便利です。
この仕組みはメルカリが最初ではなく、中国の仕組みを真似したものです。
中国のキャッシュレスで王者に君臨しているアリババが運営するアリペイは、中国のネット上のフリーマーケットなどの売上金をプールした仕組みから発展してきたものです。
今では、中国のほとんどの決済を担うくらいの規模になっているアリペイですから、メルカリが同じような舵を切るのは、当然のビジネス戦略だと言えるでしょう。
ただ、ユーザー数を増やそうとPayPayと同じようなキャッシュバックキャンペーンを乱発したのは失敗でした。ソフトバンク陣営のPayPayがキャンペーンにあれだけ費用をかけることができたのは、親会社が資金的に余裕があるからで、成長中のベンチャーでは厳しい戦い方なのです。
たとえば、LINEの運営していたLINE Payも同じ形で、結果的に耐えきれなくなり、ソフトバンクグループ傘下に入ることになりました。
メルカリの復活はコロナ禍の副産物
ですが、このコロナ禍でビジネスの情勢が変わりました。メルカリが息を吹き返したのです。
外出自粛で自宅に滞在する時間が増えました。私たちは、自宅にあるモノを整理したりして使わなくなっているモノを発見したのです。そして、そのモノをメルカリで売り始めたわけです。
気楽に売れるのがメルカリの特徴です。スマホで写真撮って、出品するだけ。
出品物が増えてくると、買う目的の人も増えます。プラットフォームが賑わうわけです。まず、出品物が増えることが買い物のプラットフォームの場合は重要です。
歴史的には、自国の商売を繁盛させ町を活性化させるために織田信長という武将が楽市楽座というシステムを実行しました。従来はお寺などの門前で座という市が定期的に開かれていましたが、座に出品するためにはお金がかかります。出店するための費用です。つまり、最初に商品を揃えるお金が必要で、さらに、お店を構えるための場所代を払う必要がありますから、お金をもっていないと商売が始められません。
そこで、織田信長の楽市楽座では、場所代を取らないということで、モノを売りにくる人は増えました。
そうすることで、織田信長の城下町は活性化しました。場所代は取らなかったわけですが、売り上げに対しての税金はあったようです。今で言う出品手数料というものです。これも売れたときにだけ発生するので、貧乏な人でも織田信長の城下町では、商売を始めることができたわけです。
メルカリの場合は、実際の土地はありません。出品数が増えても場所を必要としませんから、出品数が増えれば増えるだけ、手数料が儲かることになります。ユーザーにとっても、いくつの商品を出してもリスクはありません。リアルの店舗が苦戦しているコロナ禍において、絶好調になってきました。
コロナ禍の副産物として、プラットフォームが活性化したことで、キャンペーン費用をかけなくてもたくさんのキャッシュが入ってくる好循環のループになったのです。
メルカリの逆襲
復活後、決済サービスの自社完結を放棄したことも追い風になりました。たとえば、ドコモのd払いと連携しました。つまり、メルカリの中の商品支払いをメルペイではなくd払いでできるわけで、自社決済サービスだけにこだわらず、他社とのコラボレーションを優先し始めました。メルカリで商品を買って、dポイントが貯まるのも同じ開放戦略です。流石に、ソフトバンク陣営のPayPayがドコモと組むことはできません。
セブンイレブンでもメルカリの発送が簡単にできるようになったこともあり、セブンイレブンでのメルペイのキャンペーンもありました。その後、コンビニチェーンだとファミリーマートも発送が簡単にできるようになりました。自社完結を放棄したことで、ファミリーマートの決済サービス「ファミペイ」でメルカリの商品が買えるようになったのです。
郵便局ではスマホ対応の「ゆうプリタッチ」でメルカリのアプリからスムーズに宛名出しできるようになっています。発送伝票を書く手間がないのは、メルカリに出品するユーザーとしては嬉しいですし、間違いも減ります。同時に、郵便局側でも手書きの宛名で読みづらいとか間違えて記入のようなミスもなく配送効率がアップします。決済の面でも、ゆうちょペイとも提携していくこともありえます。クロネコヤマトも同様の伝票を効率的に作るための対応がなされています。
現状では、このように賑わうプラットフォームに各社が乗り合いしていますから、さらに活性化していくことでしょう。ただ、忘れてはいけないのは、プラットフォームが変わると流れも変わる可能性がある危険性です。フリマでは、ヤフオク!が日本では一強になっていました。ですが、メインプラットフォームがパソコンからスマホに移ったことで、ヤフオク!の優位性が薄れ、スマホに最適化しているメルカリの強さが際立ってきたのです。ですので、油断は禁物です。この業界の動きは速いですから。
とはいえ、当面はメルカリの逆襲と隆盛が続きそうです。私も自宅を整理して、何か売り買いするモノを探したいと思います。