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お金マンダラ
【第13回】敵に塩を送ると塩対応

ビジネス書作家で商品開発コンサルタントをしている美崎栄一郎です。キャッシュレスについての本を書いたご縁で、すごいカードで、連載「お金マンダラ」を始めることになりました。

この連載では、お金にまつわる話を色々と話題にしたいと思います。物事の仕組みを探求するのが好きで、歴史好きでもありますので、話がやや脱線気味になるのはご了承ください。

地名の謎

今回のテーマは「塩」なのですが、まずは、地名のお話です。

スキー場がたくさんあり、リゾート地としても有名な長野県の白馬。その近くにある小谷村(おたりむら)に行ってきました。小谷=「おたに」じゃないのかなと思いましたが、「おたり」と書いてあります。

古い地名は、元々その土地で呼ばれていた馴染みの名前があり、それに後から漢字を当てはめていたりします。過去の資料が残っていないと謎です。

自分の名前もそうですよね?親が命名したときの話を聞いておかないと由来は迷宮入りします。私の名前は「栄える」ようにということで、栄一郎にしたと親から聞いていますが、当たり前に使う地名や人名は記録が残っていないと謎になります。

小谷村の由来は、麻の産地だったから、麻垂(おたり)から変化したのでは・・・というように諸説あるようです。ただ、長野県は麻績村(おみむら)という地名が残っているように、麻の産地でしたから、あながち外れていないかもしれません。

小谷村には、牛方宿が博物館として現存しています。

牛方(牛を連れて歩く人)が泊まった宿です。牛を6頭室内の土間に入れて、その上の中二階的な場所に牛方が泊まるのです。現在でいうと、トラックドライバー的な仕事をする人になります。トラックではなく、牛に荷物を載せて運ぶのが仕事です。

つまり、牛方宿はアメリカ的にいうと、モーテルですね。

敵に塩を送る話と塩が残る地名

牛に載せた重要な荷物は「塩」でした。

日本海に面した新潟の街、糸魚川から信州の山中の松本まで潮の道がつながっていました。この塩の道、千石街道は120kmにもなります。

自動車も道路もないわけですから、この塩の道を人間が荷物を担いで運んだのです。冒頭で触れた小谷村に残っているのは、トラックではなく、牛に荷物を載せて運んだ牛方の宿でした。現存しているのは、小谷村だけですが、昔は塩の道の途中に、この牛方宿がたくさん存在したようです。

「敵に塩を送る」という有名な言葉があります。

上杉謙信が敵の武田信玄に塩を送ったという逸話ですが、この塩の道を通って、塩を送ったはずです。おそらく、無料ではなく商売として塩の取引をしたんだろうと思われます。

牛方の仕事に対する報酬は、塩で支払われたという記録もありますが、当時は貴重な塩。その塩を人や牛の力で、海から山中まで、はるばる運んだのです。

地名で言うと、長野県の塩尻、山梨県の塩部、清瀬市の野塩、岐阜の塩喰など内陸なのに、塩の付く地名はたくさん残っています。そういう土地にはおそらく塩の道が通じていたんだろうと思われます。

牛方宿と高速道路

少し話を脱線させますと、アマゾンの倉庫が現在高速道路沿いに作られているという話をしました。
【第10回】海城とアマゾンの倉庫は同じ?!

当時の物流で重要な物資だった「塩」を運ぶ中継地点の牛方宿は、高速道路のパーキングエリアやサービスエリアのような場所でした。そう考えると、将来、高速道路での移動がなくなるとパーキングエリアも文化遺産とか遺跡のようになってしまうのかもしれません。

人が集まり、休む場所は栄えます。ですので、当時は牛方宿のある宿場町は栄えていました。現在の交通量の多い大きなパーキングやサービスエリアは商業施設化している場所も増えています。

道の駅もそうですね。地元のスーパーマーケットより道の駅のほうが繁盛しているような場所もよくみかけます。

牛方宿の当時を考えてみるヒントは、現在のサービスエリアや道の駅をイメージするとわかりやすいかもしれません。

サラリーマンの「サラリー」は塩のこと

さて、お金の連載でしたよね。はい。塩=お金です。私もかつてはサラリーマンでした。
「サラリーマン」が、ローマ時代に戦士に与えられた塩(サラリウム)に由来します。塩男ではありません。正しい英語は「salaried man」 ですが、和製英語ではサラリーマンです。

今は、塩をもらって仕事をすることはありませんが、牛方は塩を運んで、塩を給料としてもらっていたということです。現代で言うと、現金輸送しているガードマン的な人が牛方の仕事をしていることになるんでしょうか。

塩が効果だった時代は、塩が通貨の代わりで、ありがたいモノでした。ですが、今はサラリーマンというとあまり格好の良い言葉ではありません。イメージをよくするときには、ビジネスパーソンとかいう言葉を使って、サラリーマンというと、サラリーマンの悲哀のようなどうもネガティブなときに使うような傾向があります。

アイドルグループなどで使われる塩対応もネガティブです。神対応の反対語が塩対応です。
謙信の敵に塩を送るという言葉も、塩のイメージが変わってくると、塩対応したと勘違いされる時代も迫っているのかもしれませんね。

PROFILE

美崎栄一郎 (みさきえいいちろう)

ビジネス書著者、講演家、商品開発コンサルタント。
1971年横浜生まれ、大阪育ち。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、花王株式会社で約15年勤務。2011年に独立し、現在に至る。
花王時代から社会人向けに勉強会・交流会を主催、著書を執筆。
これまでの著書は『iPadバカ』『キャッシュレス生活、1年やってみた 結局、どうするのが一番いいんですか?』など40冊以上。