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お金マンダラ
【第15回】自動販売機もポイントカード化して、ネットとつながる時代

ビジネス書作家で商品開発コンサルタントをしている美崎栄一郎です。キャッシュレスについての本を書いたご縁で、すごいカードで、連載「お金マンダラ」を始めることになりました。

この連載では、お金にまつわる話を色々と話題にしたいと思います。物事の仕組みを探求するのが好きで、歴史好きでもありますので、話がやや脱線気味になるのはご了承ください。

自動販売機もコインのいらない時代に

キャッシュレス生活をするときに問題となるのが自動販売機のような硬貨(コイン)が必要な機会です。日本は治安が良い国なので、自動販売機がいろいろな場所に設置されています。都会だと、少しでもスペースがあれば自販機が設置されています。

この連載でも話題にした駐車場にも車を停められない程度のスペースを有効活用するためにコインパーキングを話題にしました。コインパーキングに自動販売機を併設するのと同じようにコインを使うということで、両替機代わりにもなり、お金も稼ぐという一挙両得があるから設置させるんだろうなと思います。
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で、コインを使わない自動販売機としては、駅ナカにある交通系ICカード(SuicaやPASMO、ICOCAなど)を使うという電子マネーで決済できるモノがあります。

それ以外には、コカ・コーラ社の当時の最新自販機(Coke On Pay)搭載の自販機しかありませんでした。

ただ、当時はCoke On Payに対応している自販機も少なくて探し回るのが大変でしたが、2020年になると私の体感では、7割以上のコカ・コーラの自販機がCoke On Payで支払うことができます。

最近コカ・コーラ以外の自販機もキャッシュレス対応機種が増えてきています。そこで、今回の連載では飲み物の自動販売機を話題にしたいと思います。

自販機がアプリでスタンプカード化に

自販機の自動販売機がスマホとつながることで各社やっているのが、スタンプカード化です。ハイテクなのに、ローテクなスタンプカードなのは変な感じです。

110円のミネラルウォーターを買うと、スタンプが1つ押されます。スタンプを15個集めると、自動販売機で売っている飲料が1本もらえます。

正確には、15個貯まった時点で1本と引き換えすることができるチケットが発行されるので、あとから好きなときに飲物を買うことができます。

着実に15個貯めると、チケットが発行されます。

たまに存在しているルーレットが回って、当たるとその場で1本もらえる自販機とは違います。そう言えば、あまり当たった記憶がありません。あの自販機って確率どのくらいなんだろう。

話が脱線しそうなので、本題に戻しますと、無料チケットを使うと1本飲み物がタダで飲めるわけです。150円の飲み物と交換すると考えると、15スタンプで1枚の無料チケットですから、1回の購入あたり10円分のポイントを還元しているわけです。

このアプリ(Coke On Pay)の存在を知っている人が少ないようで、自動販売機の前でスマホアプリを起動して、スタンプを押している人はとても少ない。もったいないなぁと思います。

自販機の下を探して10円見つけなくても毎回10円分もらえるのに・・・。たまにコカ・コーラ社がキャンペーンをやっているのは、月曜日の朝は2倍のスタンプのように、ご褒美を出していたりします。なんだか、スタンプをもらうために、夏休みのラジオ体操に嫌々行っていたことを思い出したりしますねぇ。

仕組みはとってもハイテクなのに、やっていることは小学生のときと同じ。

自販機スタンプ戦国時代

さて、2020年自販機ポイントは戦国時代と化しています。コカ・コーラ社の自販機用のアプリ「Coke On Pay」だけではありません。

アサヒ飲料は、TenTenというアプリで15個で無料ドリンク1本というスタンプ式です。サントリーはGREEN+(グリーンプラス)というアプリで、独自のグリーンペイにチャージできます。ダイドードリンコは、Smile STAND(スマイルスタンド)というアプリでポイントを貯めて、一般的なキャッシュレス決済のポイントへ交換できます。KIRINの自販機は独自のアプリではなく、LINEを使いますが、スタンプが貯まるという仕組みは同様です。

各社、自分の会社の自動販売機を使ってもらおうと必死です。コンビニエンスストアが全国各地の至るところに広がった日本では飲料を買うのもコンビニになることが多いわけです。つまりは、飲料メーカーは折角全国各地に設置した自動販売機の売上が落ちてしまう。

コンビニで飲料を売るためには当然ですが、コンビニ店頭に陳列されなければなりません。ですが、コンビニ店頭の飲料売り場のスペースは限られます。ミネラルウォーターであれば、2~3社しか選択肢はないでしょう。水のような売れ筋商品は、コンビニが自社のプライベートブランドを作り始めます。ですから、より競争も過酷になります。その他の飲料のカテゴリーでも同様です。

自動販売機であれば、自社の商品だけで完結しますし、新製品が出ても、自ら入れ替えるだけで済みます。コンビニの店頭であれば、販促費を支払って、展開する必要がありますが、自販機だとそういうコストも抑えられます。

コンビニチェーンに納品するわけではないので、利幅も確保できます。というわけで、できるだけ、自社で完結する自動販売機に誘導したいのです。

各社の思惑がぶつかり合い、自販機のスタンプ戦国時代に突入したのです。

10円分のスタンプを還元したとしても、即座に10円返金しているわけではありません。単にスタンプです。15個貯まるまでは実際には還元する必要がありません。1日1本買う自販機のヘビーユーザーの人でも、15日後にしか返金する必要がないわけですから、キャッシュフロー的にもメーカーにとっては美味しいキャンペーンなのです。

アプリの原理

仕組みフェチなので、この自販機アプリの動作の原理を考えてみたいと思います。最近のスマートフォンはBluetooth(ブルーツース)と呼ばれる簡単につながる無線通信の機能がついています。一番利用されているのは、ワイヤレスのヘッドフォンです。音楽の情報をスムーズに簡単に送受信することができているのは、このBluetoothを使っているからですが、自販機ともこのBluetoothで通信します。

自販機に接続して情報をやりとりするおかげで、自販機の中の飲料がスマホアプリの中に表示され、飲料を選んでアプリ内で購入すると、自販機からガタガタっと飲料が飛び出してくる仕組みです。

スマホで設定した決済方法があれば、スマホアプリで決済まで完結してしまいますので、現金や硬貨は全く必要ありません。

Bluetoothという仕組みは機器との接続が簡便なので、自販機とサクッと繋がります。WiFiとは違い、距離は離れていては繋がらない短距離の通信規格です。10m程度が限界と言われています。そもそも自販機でモノを買うのに10mも離れた位置から買うことはありませんけど。

コカ・コーラの場合は自販機が多いということもあり、アプリで対応の自販機を検索できるという機能もついています。で、スマホの位置情報を使うわけです。この位置情報の分かる機能を使って、大分県でこの商品を買うとスタンプ2倍のようなキャンペーンも実施されていたりします。

動作の原理を知らなくても全く問題ありません。とにかく、たまに使うだけだとしても入れておいて損はないのです。

なぜ、自販機アプリで大盤振る舞いできるのか?

スタンプ1個で10円。スタンプ2倍のキャンペーン中だと1本買えば、20円分の還元になります。

2020年の年末は、d払い、PayPay、LINE Pay、楽天ペイ、au PAY、メルペイの6社のどれでも50%還元キャンペーンが実施されていました。

150円のペットボトルを買えば、半額が戻ってきます。最近見かけたのは、新製品のスープ缶を2本買ったら、1本無料のキャンペーンもありました。とにかく、大盤振る舞いです。

さてさて、どうして大盤振る舞いできるのかということなのですが、キャンペーンを告知するにはコストがかかります。ですが、ロイヤルユーザーに告知することできるのであれば、費用対効果が高いわけです。

近所で、いつもよく行くコンビニで商品を買うのは当たり前になっていますよね。同様に一度使ったことがある、いつもよく利用する自動販売機もあるでしょう。ただ、その自販機でリピート買いしていても何の得もなかったわけですが、スタンプを付けることができれば、その自販機で買うメリットが購入する側にも生まれます。

嗜好品であり、食品でもある飲料って、実は、新しいモノに手を出さない典型的な商材なんです。

さらに、お金を出してというハードルが生まれるとより新しいモノを口にしないのです。

無料で1本をプレゼントするということをすれば、普段飲んでいない少し値段の高い飲料に手を出したり、いつもは飲まない飲料に挑戦してくれる可能性が出てきます。

飲料メーカーにとっては、新しい市場は切り開きたい。

というのは、うまく切り開くことができたら、そのあとは大きな利益が見込めるからです。「ポカリスエット」しかり、「お〜いお茶」しかり、「サントリー烏龍茶」しかり。古くは「コカ・コーラ」もですよね。定番になると不動の地位を占めることができるわけです。ただ、最初が苦戦するんです。

自販機という自社で完結する販売チャンネルは、その意味でも魅力的なのです。

最近私がハマった商品ですと、コカ・コーラのスープ缶「GO:GOOD ゴクっ!と海老のビスク」です。ホントに海老が濃厚なスープ。そのまま、容器に出してしまえば、お店で飲むスープみたいです。でも、普段だと自販機で選ばないわけです。2本買ったら1本無料というキャンペーンがあったので、手を出して、ハマっているわけです。

このスープのブランドのコーンスープは定番ですよね。普段だとこちらを飲むことを選んでいるわけです。海老には手を出さない。でも、キャンペーンで手を出したあとは、海老ばかり飲んでいます。

そう、海老のスープは一般的ではありませんが、もしかしたら、定番になり、この海老のビスクが定番になるかもしれないのです。

お寿司のネタで海老は定番です。おにぎりでも海老は入っています。サーモンもお寿司やおにぎりで今では定番になっていますが、ここ最近定番化した食材なのです。今ではなくてはならないラインナップも最初は苦戦していたのです。

というわけで、次のスターの早期発掘のために、アプリを入れて自動販売機に向かいたいと思います。

PROFILE

美崎栄一郎 (みさきえいいちろう)

ビジネス書著者、講演家、商品開発コンサルタント。
1971年横浜生まれ、大阪育ち。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、花王株式会社で約15年勤務。2011年に独立し、現在に至る。
花王時代から社会人向けに勉強会・交流会を主催、著書を執筆。
これまでの著書は『iPadバカ』『キャッシュレス生活、1年やってみた 結局、どうするのが一番いいんですか?』など40冊以上。