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お金マンダラ
【第22回】スーパーヒーローVSミッキーマウスのビジネスモデル

ビジネス書作家で商品開発コンサルタントをしている美崎栄一郎です。キャッシュレスについての本を書いたご縁で、すごいカードで、連載「お金マンダラ」を始めることになりました。

この連載では、お金にまつわる話を色々と話題にしたいと思います。物事の仕組みを探求するのが好きで、歴史好きでもありますので、話がやや脱線気味になるのはご了承ください。

ディズニーとマーベルのビジネスモデル

8月に入って、Disney+(ディズニープラス)に契約したら、マーベル作品の中核である最初のアイアンマンが見られないという不思議な現象に遭遇しました。今回の話題はミッキーマウス率いるディズニーとスーパーヒーロー(マーベル)のビジネスモデルを話題にしたいと思います。

ディズニーがマーベルを買収したのは2009年。ですので、それ以降は、マーベルはディズニーグループです。

極端な例えですが、ミッキーの部下がアイアンマンという構図です。

アイアンマンは、3部作で『アイアンマン』『アイアンマン2』『アイアンマン3』と2008年、2010年、2013年の公開されました。
結果的に3部作になったというのが、実際としては正しいのです。

1作目が興行収入的に成功したので、続けることができたわけです。
ちなみに、公表されている興行収入は1作目から3作目まで、5.8億ドル、6.2億ドル、12.1億ドルと上がり続けているので凄まじいです。

映画のビジネスモデルは1作目が当たるとその人気を活かして続編を出すというのが定法なので、1作目が当たらなければ続編はありません。外れたら3部作などありえません。

製作者は3部作のつもりで計画していても、売れなければ終わり。結果的に3部作になるだけ。そういうビジネスモデルです。

最近では、そのビジネスモデルを見越して俳優と契約しているため、シリーズを通じて同じ俳優さんが演じることになっています。ですが、最初のアイアンマンが公開された時点では、そういう契約は十分に行われていなかったようで、アイアンマンの友人ジェームズ・ローズ中佐​​はテレンス・ハワードからドン・チードル​​に変わっています。
超人ハルクに至っては、主役が変わってしまっています。

興行収入が前作より上がることを予想して、制作費を上げることができるので、シリーズモノはハズレが少なくなります。世界観もできているし、作品にかける予算も増えているので、クオリティが担保されるという好循環です。

ただ、同時に俳優さんの出演料も凄まじく高騰しています。アイアンマンの主役のロバート・ダウニー・Jr​​の出演料は、最初は50万ドル(日本円で約5000万円)でしたが、11年後の『アベンジャーズ・エンドゲーム』では7500万ドル(日本円で約80億円)になっています。普通の仕事ではありえない人件費の上昇ですね。

同じマーベルのキャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンス​​は第1作目の『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』で100万ドル(日本円で約1億円)でしたが、8年後の『アベンジャーズ・エンドゲーム』では1500万ドル(日本円で約16億円)になっています。

『アベンジャーズ・エンドゲーム』は、世界一の興行収入で、27.9億ドル(日本円で約3000億円)というこちらも桁違いですが、スーパーヒーロー役の俳優陣の出演料も桁違いですから、合算される人件費も凄まじい。

キャラクタービジネスの場合、キャラクターの価値が上がることで売上も上がりますが、ミッキーマウスもアナと雪の女王もキャラクター自身のギャランティが高騰することはありません。ですので、ディズニーアニメで稼いだお金で様々なエンタメ企業を買収することができたわけです。

実写のヒーロー作品は、人件費がアニメと異なるわけです。

ディズニー傘下になったマーベルですが、マンガから発展した実写映画が稼ぎ頭になりました。漫画のまま、成功していれば、アイアンマンの部下がミッキーだったかもしれません。

マーベルの実写映画は1作品ヒットすれば、続編がヒットする確率は上がりますが、次回作の制作費はアップします。人件費もアップし、その高騰によりシリーズをどのあたりまで続けることができるのかという制約条件にもなってしまうのです。個人的には、まだまだアイアンマンを見たいのですが・・・。

共演NGのヒーローたち

巨額なビジネスになっているので、映画にはさまざまな権利や契約が発生しています。

マーベルで人気のキャラクターのスパイダーマンは、映画化の権利をマーベルがソニー・ピクチャーズに売り渡していました。それどころか、最初はアイアンマンなどの数々のヒーローを映画化権をまとめて売るという商談に出ていたようです。

ソニー・ピクチャーズ側からスパイダーマン以外は要らないということで、商談は破談になったようです。ただ、その後も各社にバラバラと映画化権を売っていたため、同じ会社(マーベル)に所属するヒーローたちが共演NGになるという面白いことになりました。

巨大ビジネスになって権利がバラバラに売り買いされたおかげで、アイアンマンの1作目はDisney+(ディズニープラス)で配信されないのです。

交渉の末、共演OKになったアイアンマンとスパイダーマンですが、Disney+(ディズニープラス)では共演したアイアンマンの登場するスパイダーマン作品は見れません。配給する権利がないのでしょう。

このあたりも大人の事情が見え隠れする巨額ビジネスならではですよね。

ミッキーマウスの著作権も時効を迎えるタイミングがくるたびに、著作権法の改正があり延命しています。巨額な利権を巡る攻防は、スーパーヒーローの戦いより、複雑で、勝敗が決まるまで、まだまだいくつもの戦いがありそうです。

PROFILE

美崎栄一郎 (みさきえいいちろう)

ビジネス書著者、講演家、商品開発コンサルタント。
1971年横浜生まれ、大阪育ち。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、花王株式会社で約15年勤務。2011年に独立し、現在に至る。
花王時代から社会人向けに勉強会・交流会を主催、著書を執筆。
これまでの著書は『iPadバカ』『キャッシュレス生活、1年やってみた 結局、どうするのが一番いいんですか?』など40冊以上。