鎌倉投信はこれまでの投資信託とは一線を画している。
社会課題を解決しようとする企業に投資することで、社会にとって「いい会社」が発展していき、投資が社会貢献となるー。
これまでの、ただお金を増やすことを目的とした「投資」とは違った投資哲学で支持を集め、同社が設定・運用ならびに販売する投資信託「結い 2101(ゆいにいいちぜろいち)の顧客預かり資産(運用残高)は10年で100倍超になっていた。
ハーバード大学で最も人気のある講師ショーン・エイカー氏は、「自分は幸せだ」と思える人ほど、よい結果をうむと唱えるポシティブ心理学の第一人者。
弱肉強食の厳しい資本主義社会で、「成功」と「幸福」の意外な相関関係を解く彼によると、人助けをする道こそ成功へと導く最短距離だという。
成功するから幸福というわけではなく、幸福だから成功する。
鎌田氏の経営する資産運用会社(投信委託会社)は、投資に人助けという、ショーン・エイカーばりの逆転の発想があったはずだ。
今、注目を浴びる鎌倉投信の勢いが止まらないのは、他の運用会社とは一線を画す、この視点が秀逸だからであろう。
鎌田氏に、これまでの経緯やこれからの想いについて伺った。
(経歴)
鎌倉投信株式会社、代表取締役社長。
島根県大田市出身。1965年生まれ。大学卒業後、1988年、日系信託銀行入社、証券管理および資産運用部門で働く。1999年、外資系信託銀行入社、資産運用業務に従事。2008年、かつての同僚とともに鎌倉投信株式会社を設立。
『R&Iファンド大賞2019』最優秀ファンド賞受賞の「結い 2101」、そのはじまりは・・・
鎌倉投信が目指すのは、「投資家の資産形成(経済性)と社会の持続的発展(社会性)の両立」
毎年開催する受益者総会®とは何?
投資信託『結い 2101』が応援するいい会社
「これからは人間らしさを問う時代です。いかに人間らしく豊かに暮らすかを考える時代なのだと思います」
『R&Iファンド大賞2019』最優秀ファンド賞受賞の「結い 2101」、そのはじまりは・・・
鎌倉投信という資産運用会社は、少し変わっている。
少しどころか、非常に変わっている。
そもそも鎌倉市に本社を置いたところから普通じゃない。本社屋は100年近く前に建てられた古民家で、まずはこれをリノベーションするとことから事業はスタートしたという。
そもそも、なぜ、鎌倉に。
問いに対して
「ずっと金融の仕事をしてきましてね。だから、最初は、この金融から離れて、NPOのような草の根の社会貢献、手触り感のある仕事をしてみたいと思っていたんです」と、鎌田社長は話す。
語り口もソフトで洗練された紳士だ。前職で、金融工学を駆使した運用の最前線で仕事をされた方とは思えない。どちらかといえば、英国紳士の佇まいを感じさせる。
そんな鎌田氏が鎌倉に本社を置いたのは、それなりの理由があった。
「鎌倉は、さまざまな魅力のある土地です。自然が豊かで、日本ではじめて環境保全に取り組んだ街でもあります。高層ビルではなく、歴史と伝統と文化と、そして武士の都に本社を置く、これに意味があると考えたのです。
まあ、でも、この立ち上げは簡単じゃなかったのですがね(笑)。
創業まで半年かかりました。鎌倉投信を立ち上げ前に、まず議論。仲間とともに長い時間をかけて議論して、本社を鎌倉に、理念としては社会に貢献する金融(運用)を。
どうそれを実現していくかを考え考え抜いた末に、でた結論をもってはじめたのが鎌倉投信です」
はじめて鎌倉投信を訪れる方は驚きを禁じえない。
サザエさん一家が出てきそうな、昭和の懐かしい雰囲気を持つ庭と社屋。庭には柚子や梅の実がなり、竹の子が生え、昔ながらの廊下からは縁側の向こうにある庭を眺めることができる。
ほっこりする景色の中でおこなわれる最前線かつ独自の理念を持った資産運用。
この二つの異質なものが相乗効果をあげる鎌倉投信が運用・販売する『結い 2101』ファンドは『R&Iファンド大賞2019』最優秀ファンド賞(NISA/国内株式部門)を受賞した。この賞の受賞は3回目。最優秀賞は2回目である。
鎌倉投信が目指すのは、「投資家の資産形成(経済性)と社会の持続的発展(社会性)の両立」
「いいものはいい!」
ものすごく単純な発想だが、単純な仕組みこそが鎌倉投信の本質であった。
社会性や社会貢献という言葉は時に嘘くさい。しかし、律儀に生真面目にそれだけを追い求める姿はむしろ尊いといえないだろうか。
2008年、リーマンショックが起きた混乱のさなかに、会社の旗揚げが重なっていた。出発の号令を出すには、素人の私が考えても最悪の時期である。
多くの友人や元同僚が「お前、大丈夫か」と懸念するなかでの起業だが、鎌田氏には確信があったようだ。
「お金というものは、本来、無色透明なものです。そこに人の心が宿ることで何か別物に変貌していきます。
汚くもなり、尊くもなります。何かの犠牲の上に金儲けをして自分だけが得をするお金を得るか、人のために使い、誰かに感謝されるために使うか。実際のところ、それはその人の心次第だってことです。
会社を設立した当時の2008年は、リーマンショックで世界の経済、金融情勢は大混乱でした。その後、その不透明感は幾分和らいだものの、運用を開始して1年程経った時に起きた東日本大震災の直後には、日本の株式市場は、パニック売りのさなかでした。しかし、鎌倉投信に投資していただいたお客様で売却された方はほぼゼロ、逆に善意や応援の気持ちから、入金頂いた件数は、当時最大でした。
当初、主旨に賛同して投資していただいた受益者(投資家)は267人で当初の設定金額は3億円(2010年3月29日)でした。それが10年近くになり、現在、運用資産額は415億円(2019年12月末基準)に、受益者数は2万人を超えています」
驚くべきことだと思う。
始まりの頃、多くの人が社会貢献と投資の両立に懐疑的だったにも拘わらず、個人を中心に現在では2万人が保有する投資信託を運用販売する会社に成長している。
「社会性と経済性は矛盾しないと思います。鎌倉投信は投資家との対話を大切にしながら信頼関係を保っています。個人の投資家が、投資信託等を購入する場合、普通は投資家と運用会社との間に販売会社が挟まります。
それは銀行だったり、証券会社だったりします。そうした販売業者を介さない直販が、言うなればウチの特徴の一つです。直販だからこそできる取組みとして、鎌倉投信と投資家との対話だけではなく、さらに投資家と投資先企業との関係づくりにも取組んでいます。
例えば、運用報告の一環として開催する、投資家である個人の方が投資先企業に直接見学に行く「いい会社訪問®」や、投資した会社の経営者の話を聞く「いい会社の経営者講演」等を通じて、この企業に投資する意味を感じてもらいたいと思っています。
そして、投資を通じて「いい会社」を応援することは社会貢献にもなるという実感を持ってもらい、個人の投資家のモチベーションにも繋げていきたいと思っているのです」
実際、他の資産運用会社と一線を画すのは、その投資を通じた関係づくりにあるだろう。
鎌倉投信独自の視点で投資先を調査し、対話を重ねてその企業が持つ本来のよさ、社会における存在価値を見出し、銀行や証券会社を通さず、直にそうした価値を顧客に伝えて互いの信頼関係を深める。
それが鎌倉投信の大きな仕事のひとつで、そこには机に座ってデータだけ見つめ、ポートフォリオを構築する普通の投資信託にはない手触り感がある。そこにマネーゲームは存在しない。
会社の実態を観ることを最重要とする鎌倉投信では、運用者が、自ら投資する会社へ足を運び、実際の現場やその将来性を吟味する。このスタンスが、際立った特徴だといえる。 なぜそんなユニークであり手間暇かけた形で投資をおこなうのか。
「本業を通じて社会に貢献する会社を見つけたい。それには、実際に足を運んでみるしか方法がないのです。社員の声を聞き、社長の人柄を知る。何を求めて、何をしているのか、その企業理念と実践の過程を知ってこそ、いい会社の発見につながります」
こうして発見した「いい会社」を応援するために投資する。
きわめて健全な投資活動がそこにあった。
毎年開催する受益者総会®とは何?
あらゆることが新しい試みでユニークな鎌倉投信。その一つに「結い 2101」の受益者総会という運用報告会がある。
年1回開かれる受益者総会では、「結い 2101」の決算報告をおこなうとともに、毎年テーマを決めて、投資した企業の社長やスタッフに話を伺う。
2019年の総会では、(株)ユーグレナの出雲社長らが講演をおこなった。
ユーグレナは世界初の微細藻類ミドリムシの食用屋外大量培養に成功し、2020年に向け国産バイオジェット・ディーゼル燃料の実用化計画を進める有望企業だ。
ここでは、講演やパネルディスカッションをおこなうことで、またその企業の社員も本音で語ることで、投資家が投資先の企業をダイレクトに知る仕組みができている。それを形にしたのが受益者総会ということだ。
投資信託『結い 2101』が応援するいい会社
投資を通じて「いい会社」を応援する。それも幅広い事業を展開する知名度の高い大企業というより、投資先を選ぶ3つの視点「人」「共生」「匠」の一つ、「匠」でいえば、ニッチ分野を得意とし、世界で彼らにしかできない技術をもった企業を応援する。彼らの元気を支えたいと、鎌田社長は考えている。
そうした運用方針を追求した投資信託が『結い 2101』。
投資する企業は、現在、上場企業を中心に67社。
鎌倉投信が日本中から集めた「いい会社」。
そのユニークな企業を知り、私は日本も捨てたものじゃないと思えた。本業を通じて社会に貢献する「いい会社」は実は多いのだ。そんな企業こそ、日本の宝なのかもしれない。 ここに少しだけご紹介したい。
「結い 2101」が応援する「いい会社」
【株式会社エフピコ】
知名度は高くはないが、食品トレー製造販売でトップシェアを持つ優良企業。
環境への取り組み、技術力も素晴らしいが、この会社の最たる特徴は、その社員構成。
重度障碍者を正社員とし、彼らの強みを活かし、重要な戦力として雇用していることだ。 同社の障碍者雇用率は全社員の14%にもなる。企業に法令で義務づけられた法定雇用率2.2%をはるかに上回っている。
【株式会社マザーハウス】
発展途上国を応援する企業であり、その活動が評価された社長の山口絵理子氏はテレビ東京「カンブリア宮殿」でも紹介されている。
一般的に後進国でおこなう援助には、どこかしら上から目線の「助けてやっている」「利益は2の次」といった姿勢が目に浮かぶ。
マザーハウスを立ち上げた山口絵理子氏の視点は違った。
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に、アジアの最貧国バングラディッシュに単身向かい、裏切りや過酷な生活にもめげず、孤軍奮闘。
現地に工場をつくり、世界に通用する天然素材を使ったバッグを製作、販売するまでに至っている。このビジネスモデルに世界の評価は高い。
【株式会社スノーピーク】
新潟県燕三条の優れた職人技術を活かし、「自分のほしいものを自分でつくる」から始まったアウトドア事業の企業。
アウトドアといえば登山だった時代に、家族の絆を深めるオートキャンプという形を世界ではじめて創った。モノづくりの原点である地域の特性を活かした自社製品を製作。
どんなに堅い地面でもテントを固定する器具やチタン深堀技術を使った食器などで、多くのキャンパーの人気を集めている。
オートキャンプが盛んな今、スノーピークの将来は明るい。地域密着型の企業であり、日本を元気にする企業の一つでもある。
「これからは人間らしさを問う時代です。いかに人間らしく豊かに暮らすかを考える時代なのだと思います」
日銀発表によると2018年度末で、個人の金融資産は1835兆円という。
そして、全体の53.3%が現金預金だ。その額、なんと977兆円。多額の金がただ眠っている状態である。
銀行の定期預金の金利は下がりに下がりきって、現在は0.01パーセント。
この超低金利では、たとえ1000万円を定期にしても1年で却ってくる利息は1000円にしかならない。10年預けても1万円である。
老後の蓄えとしての貯蓄は全く増えないに等しい。だから不安になる。こうした閉塞感は日本全体を覆っている。
安定した生活や老後を過ごすための資金。それをどうしていいのかわからないのが現状で、だからといって、むやみに投資に走るのは怖い。
私たち一般の人間はどうしたらいいのか。
投資で財産をすべて失ったなんて話を巷で聞くと怖くなる。
その疑問を鎌田社長にぶつけると、
「よく勘違いされることは、投資と投機を一緒にしていることです。投資と投機を混同する方は多い。投資が怖い、お金儲けは汚いという意識が日本人にはありますね。それは間違っていると思います。投資は投機じゃないのです。
逆にいえば、投機は危ない。投機は株価とか為替等の値段のさや取りで、実体的な価値に必ずしも連動しない分、予測が難しく、不確実性が高まるためです。
短絡的なマネーゲームの要素が強く、例えば株式のデイトレード等の場合、投資する会社が、いい企業かどうかなど関係ない。
値段が短期間のうちに上がるか下がるかに賭けるやり方です。実体が見えない。見えないものは怖いのです。一方、投資はビジョンに立っておこなうものです。実体の価値を持つものに投資するのであって、見えないものではないのです」
では、これからの経済環境の変化、その中で個人の投資家が心掛ける点は、
「現代の日本は成熟化した社会に向かっています。モノやサービスを拡大させる高度成長時代ではありません。だからGDPは大きく伸びないし、経済成長はゆるやかになります。
だからこそ、これからの日本は、モノやサービスを拡大し、大量に消費することを前提とした規模の経済を追求するのではなく、人の心を豊かにするような社会の質的発展が求められます。
これからは人間らしさを問う時代です。いかに人間らしく豊かに暮らすか。その意味を考える時代なのだと思います。企業活動の中でもそうした視点は求められるでしょう。
投資という観点からは、いかなる時代変化の中でも普遍的に大切なことは、まず、長期的な視野に立って、続ける、ということです。
そして、長期的観点で資産形成をする場合、最も適した資産といえば、株式でしょう。短期的には株価は上下しますが、10年、20年で考えたとき、株式が最も資産形成に貢献する可能性が高い資産といえます」
鎌倉投信が運用・販売する『結い 2101』は国内の株式を主な投資対象としている。さらに興味深いことは、安定感を高める(投資信託の基準価額の変動率を、年率10%以下とすることを目標)ために現金(キャッシュ)を保有している(現金比率36.5%,2019年12月末基準)ことだ。
実際、私自身、投資は怖いと思っていた。それは、投機的な刹那の儲けを想像するためで、いわば宝くじの1等に当たるような、そんな儲けを期待していたからだ。
お話を伺い、きちんと企業を見つめた長期の投資は多少のリスクはあるが、安定したものだとの認識に至った。
「私は鎌倉投信を創ってよかったと思っています。なにより、自分のなかで金融や資産運用本来の目的とは何か、といった気づきが多い。20年前に働いていた金融工学の最前線では考えもしなかったことです」と、彼は最後に付け加えた。
鎌田社長とお話ししていると気持ちがいい。この清々しさはなんだろうか?
汚濁とは別の、なにか美しい思想がそこにはある。例えば感動的な映画を見たあととか、すばらしい音楽に接したあとのような・・・、映画館を出て、「最高だったね」と誰かと共有したい、そんな気分になるのだ。
鎌倉の豊かな自然のなかで育った運用会社。今後を応援したいと思いながら、その日の取材をあとにした。
※「受益者総会®」「いい会社訪問®」は、鎌倉投信の登録商標です。
鎌倉投信株式会社
設 立:2008年11月5日
所在地:〒248-8790 神奈川県鎌倉市雪ノ下4丁目5−9
電 話:050-3536-3300(代表)
この記事を書いた人
アメリッシュ
『はてなブログ』で、ちょっと変な雑記を書いているブロガー兼編集ライター。ブログではアメリッシュ本人とディズニーオタクの豪快な姑(オババ)がともに戦国時代で冒険、ダメダメぶりばかりを発揮する女だが、なぜか、そのダメッぷりが受け、ブログをはじめて半年で33万アクセス。本人はそのアクセス数に感謝と驚嘆をしながら、今日もブログに明け暮れております。