様々な職業の人へのインタビューを通じて、お金の価値観や向き合い方を探る連載企画 『お金とわたし』。
今回は、『ぷよぷよ』を専門に日本初の女性パズルプロゲーマーとして活躍するTemaさんにお話を伺いました。
これまでの歩みからプロゲーマーのお金事情、そして今後の目標まで詳しく語ってもらいました。
『ぷよぷよ』は人生そのもの
収入は決して多くはないけど今が幸せ
プロゲーマーのお金事情
過去には仮想通貨で痛い目に・・・
「その道を切り開いていくこと」がやりがい
お金は安心を得るためのもの。それ以上ではない
自分がもっと稼がないと他の人が稼げない
今後もパイオニアとして先頭を走り続けたい
『ぷよぷよ』は人生そのもの
–プロゲーマーになったきっかけはなんですか?
経緯としては、プロゲーマーのライセンスを発行しているJeSUというeスポーツの団体があるのですが、一昨年(2018年)の3月に『ぷよぷよ』がライセンスタイトルの一つに選ばれて。
そのときに推薦という形でライセンスを頂きました。
–推薦で?!
はい、過去の実績が評価されたらしいです。私は2016年の「SEGAフェス」という『ぷよぷよ』の公式大会で3位になったんです。
–そもそもですが、『ぷよぷよ』にハマったきっかけは何ですか?
一番最初に買ってもらったゲームが「すーぱーぷよぷよ」でした。スーパーファミコンのやつですね。
それからゲームはいくつか買ってもらったのですが、『ぷよぷよ』は気付いたら100時間200時間平気で遊んでいるくらいハマってましたね。
他にもハマったゲームはいくつかあって、有名どころだと『ゼルダの伝説』『スマッシュブラザーズ』『カービィボウル』、マイナーなものだと『ICO(イコ)』『デュープリズム』ですね。
–そのなかでも特に『ぷよぷよ』にハマった、その魅力は何ですか?
中盤の駆け引きですね。『ぷよぷよ』って上達してくると、相手を見るようになります。初心者の人は“大きな連鎖”を組みたがるけど、上手い人同士だとそれができない。
※連鎖・・・『ぷよぷよ』は同色の「ぷよ」が4つ以上くっつくことにより消滅、得点となる。それの連続
大事なのは相手のスキをつくことです。そのためには相手を見て、スキがあるなと思ったときに連鎖を撃つ。相手の状況に合わせて戦略を組み立てるので、(将棋や囲碁などの)ボードゲームに近いかもしれません。
–プロのゲーマーになることに躊躇はなかったですか?
なかったですね。むしろ、後悔する気がしたんですよ。
「今、eスポーツの波が来ている」。こういう時に一番になるのが大事だと考えています。先行者利益といいいますか、二番煎じじゃダメなんです。初になりたかったんです。
だから、やるんだったら早いほうがいいし、多少のリスクがあっても今やらないと後悔するだろうなと思っていました。
–プロゲーマーになるまでは公務員だったそうですが、親御さんは当時どういった反応でしたか?
しょうがないって感じでしたね(笑)。今は応援してもらっていますよ。
というのも、元々私は早稲田大学院の出身なんですけど、早稲田に入った動機が『ぷよぷよ』で。「早稲田大学ぷよぷよ戦術技術開発研究所」という、れっきとした公認サークルがあるんです。そのために受験も頑張りました。
『ぷよぷよ』のために仕事を辞めたとしても周囲は驚かないです。
–Temaさんにとって『ぷよぷよ』とは?
もう人生なんじゃないですかね。今の友達関係もそうですし、生活の中心ですから。
『ぷよぷよ』がなかったら今でも公務員だったと思いますよ。
–社会人時代も『ぷよぷよ』はやられてたんですか?
実はやっていなかったんです。「ゲームは子供がするもの」と思って、きっぱりと卒業していました。そしたら、eスポーツブームが来ちゃったんですよ!
ちょうどその頃に東京MXテレビさんで「ぷよぷよ女王決定戦」という企画があったのですが、私は呼ばれませんでした。
出演した人に「なんで私は呼ばれなかったの」って文句を言って。すると「Temaさんは引退したって聞いたから」と言われたので「じゃあ戻るよ」って。それが復帰したきっかけですね。
復帰直後はボロボロに負けることもあり、それが悔しくて。そこから半年くらい練習して、再び東京MXテレビさんの男女混合の大会で8位になりました。結構レベルが高い大会だったので、それでまだまだイケると実感しました。
–当然かもしれませんが、eスポーツも他のスポーツ選手と同じようにブランクがあると実力を発揮できない。日々の練習が必要なんですね。
毎日やってないと連鎖は汚くなるし、きれいな大連鎖も組めなります。とくに狂うのが、相手との駆け引きとか間合いですね。
相手の盤面を見て、何連鎖あるとかどういう事をしてきそうかとか読みをしないといけないんですけど、その読みがどうしても遅くなります。そうすると対応が後手になってしまうんです。
–「読み」はすごく大事ですか?
むしろ「読み」が全てです。もちろんある程度の技量があることが前提ですけど。空間把握能力や戦術の研究が「読み」に影響すると思います。
あと大事なのは、反射神経。やっぱり若い高校生とかは速いし、強いですよ。
収入は決して多くはないけど今が幸せ
–2,3年前にテレビ出演された際に、年収を暴露されていましたよね。たしか50万円ほどだったと記憶しているのですが。
そうですね。当時はその50万円も経費に使っていました。今は、スポンサーさんからの収入があるので、経費を引いても同じくらいの金額が残ります。あの頃よりは自分がやりたいことにお金を使えています。
それでも、地方の団体と交流したり、活動費用に使っているのでプライベートの生活のゆとりはそこまで変わらないですね。
–プロゲーマーの収入は大会の賞金がメインなのでしょうか。
色々ありますよ。大会の賞金以外にも、イベント出演と動画配信、スポンサー収入。その割合はプロによって違いますけど、私は残念ながら大会の賞金は稼げていないので、スポンサー収入がほとんどです。
–収入でいうと、公務員のときの方があったのでは?
そうでしょうね。年功序列だし、福利厚生とかも考えると。でも全然、今のお給料に不満はないです。スポンサーさんには感謝しかありません。
実はスポンサー探しに苦労してる人も多くて、スポンサーが付かなくて引退してしまう選手もいますから。
そのなかで、ネットギアさんにスポンサーをして頂き、自分の活動に専念できる場をもらっているだけ恵まれてますね。公務員のときよりも今の方が幸せです。
–「今の方が幸せ」と言えるのは羨ましいですね。
ずっと夢だったんですよ。自分が好きな『ぷよぷよ』がeスポーツのタイトルとして注目を浴びて、私や友達のプレイヤー達と一緒に大会で地方を巡るのがずっと夢だったんです。
今だったら、1週間前は遠征で沖縄に行ったし、去年はイギリスの大会にも行きました。なので、やっぱり交通費はかかりますね(笑)
プロゲーマーのお金事情
–色々な場所を巡るのが夢だったなら良いですよね。ちなみに、大会の賞金っていくらぐらいですか?
『ぷよぷよ』は数ヶ月に1回「ぷよぷよチャンピオンシップ」というプロだけのトーナメントがあります。それに優勝すると100万円。
その100万円クラスの大会が定期的にあり、年に一度の「東京ゲームショウ」は優勝すると200万円です。
–優勝賞金が億単位の大会もある海外と比べると低いですよね。
はい。今もそうだと思いますけど、日本ではゲームがスポーツとして認識されていないですよね。あとは法律の縛りもあって、その辺が海外に比べて遅れている原因だと思います。
–もちろん大会賞金以外の収入もあるわけですが、プロゲーマーという職業はお金の面では結構シビアですよね。
お金のためにプロゲーマーになる人は滅多にいないと思います。簡単に稼げるものではないですし、ちゃんと実力のある人が結果的に稼げる職業だと思います。
過去には仮想通貨で痛い目に・・・
—-プロゲーマーになる前は貯金されていたのですか?
貯金はですね、してたんですけど…。
仮想通貨でやられました。シャレにならない金額を貯金の半分かな、失いました。多分「プロゲーマー 仮想通貨 tema」で検索すると、私の炎上記事が出てきますよ。
–えっ?! 全然知りませんでした。
そのときが人生で一番テレビに出てました(笑)。プロゲーマーとしてではなく、仮想通貨で損した人として。顔出しOKなのは私だけでしたね。
–コインチェック(事件)の時に?
そうです。
知人から「貯金あるんだから仮想通貨やんなよ」って言われていたんです。私はそういうのは嫌いだからやらないと言っていたのですが、半年くらい言われ続けて・・・。
私のTwitterで探すと出てくるんですけど、「ビットコイン買いました」ってツイートした日が、かの12月8日です。後はお察しですよ。
貯金は当時の年齢的に、結婚の相手を具体的に決めてたわけじゃなかったんですけど、理想の結婚式を挙げるためにしていました。
人生の大きなターニングポイントで後悔したくない性格なんですよね。
「その道を切り開いていくこと」がやりがい
–プロゲーマーになったのもそうですが、Temaさんは踏ん切りが良いですよね。それは性格的なものですか。
行動力じゃないですかね。いつも他の人が考えない方法をやろうとするんです。
自分はそこまで器用ではないので、他の人がやってることを真似しても二番煎じにしかならないのが分かる。だったら誰もやったことがない方法でいこうって思っています。
たとえば、今所属しているSDM(スターダストマーケティング)に履歴書を送ったのも、芸能事務所に女性プロゲーマーが入った例がなかったんです。そうやって、普通じゃない道をパッと決めて、大胆に行動に移す。
それが悪い方に行くこともあるんですけど、良い方に行くと上手くいくのかなって。人生だから色々あります。
–この仕事のやりがいって何ですか?
自分にしかできないことができることだと思います。
イベントを盛り上げるにしても、みんなTemaさんだからって依頼して下さるわけで。自分の存在価値というか、私だからできることをやれているんだろうなと。
あと先が見えないからこそ、新しいことに挑戦してるっていうやりがいはすごいあります。
eスポーツ界における『ぷよぷよ』の道を、自分と今の仲間たちが切り開いているわけですね。そう思うと、これは絶対に自分たちにしか出来ないことだし、その道で一番になれているっていうのは本当に嬉しいです。
–逆に辛いことはありますか?
今はそんなにないですね。
ただ、お金がなかった時は正直苦しかったですよ。1年目、2年目くらいは活動資金も自分の貯金を切り崩して出していた状況で。今は自分の求めてる生活はできているので満足しています。
ただ、釣り合ってないとは思っています。結果が伴わないと十分なお金はもらえないわけですから。
お金は安心を得るためのもの。それ以上ではない
–『すごいカード』のテーマでもあるのですが、Temaさんにとって「お金」とは何ですか?
お金は不安を和らげるというか、安心を得るためのものでしょうね。
そもそも私はあまりお金を使わないんです。使うのは友達との交際費やゲームの機材、そして遠征費です。ほとんどが仕事関係ですね。
でも、お金がないことによる生活の不安っていうのは絶対あります。お金はその不安を解消する、自分の精神的に余裕をもたせてくれるものですね。
–1年目2年目があったからこそ思うことでしょうか?
そうでしょうね。あと、うちはお金に関しては割と苦しい家計だったのもあると思います。だからこそ、あれば安心するのかなとは思います。
ただ自分にとっては、それ以上ではないんですね。もうちょっと欲があれば良いのかなって思うんですけど、あんまり物欲がないので困ってるくらいです。
自分がもっと稼がないと他の人が稼げない
–もっと稼ぎたいとは思っていないのですか?
いや、稼ぎたいですよ。自分がもっと稼がないと他の人も稼げないからです。
今『ぷよぷよ』の第一線で活躍している私の年収が仮に100万円だったら、私よりも地名度がない人はもっと低いわけですよね。20万円とか。
それが今後私が1000万円とか2000万円もらえるようになったら、私よりもちょっと劣ってる人でも年収500万とかになっているかもしれない。
つまり、業界としても私が稼げている方がいいわけです。そうじゃないと、みんなのモチベーションにならないし、ビジネスのコンテンツとしても成立しない。私にはその責任があると思っています。
今後もパイオニアとして先頭を走り続けたい
–最後に、Temaさんの今後の目標を教えてください。
これからも先駆者として、パイオニアとしてずっと頑張り続けて、『ぷよぷよ』の女性プロといえばTemaさん、と言ってもらえる存在であり続けることです。
今でもなれてると思うんで、これからも先頭を歩き続けたいです。
あと、『ぷよぷよ』はまだ世界ではそこまで発展していません。海外では賞金何億とかの大会もあるんですけど、まだその段階ではない。これが世界に広まって、世界中を旅できたら素晴らしいことだと思います。
プロフィール
Tema
芸能事務所スターダストグループ・株式会社SDM所属
史上初JeSU公認女性プロゲーマー
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