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お金とわたし
老後2000万貯金より「仲間を作ったほうがいい」 税理士・戸村涼子さんが語るお金論

老後2000万貯金より「仲間を作ったほうがいい」税理士・戸村涼子さんが語るお金論

様々な職業の人へのインタビューを通じて、お金の価値観や向き合い方を探る連載企画『お金とわたし』。

今回お話を伺ったのは、スモールビジネス・クラウド会計に特化して法人や個人事業主のサポートを行っている、税理士の戸村涼子さんです。
税という分野からお金と関わっているプロフェッショナルは、お金をどう捉えているのでしょうか?

お金と向き合っていくためのヒントを伺いました。

税理士は3つの仕事をしている

―本日はよろしくお願いいたします。
税理士として活躍されている戸村さんですが、どんなことがきっかけでこのお仕事をしているのですか?

いちばん初めのきっかけは大学生の頃にありました。
姉が勉強していた簿記の参考書をちらっと見た時に、暗号みたいに文字と数字がびっしり書いてあって、「これを解けたら面白そうだな」とパズル感覚で解き始めたらハマってしまって。
それが簿記に興味を持ったきっかけですね。

大学卒業後、結婚・出産を挟んで大手企業の経理・財務の仕事をしていたのですが、その時に簿記が好きだったことを思い出して、税理士の勉強を本格的に始めました。資格を取ったのは2015年ですね。

―税理士は、日々どのような仕事をしているのでしょうか?

税理士の三大仕事と呼ばれているのが、税務相談税務書類作成税務代理です。
決算の時に必要な書類を作成したり、会計や税務の相談を受けたりしています。
たくさんある申請書や届出書などをお客様の代わりに提出したり、税務署とお客様の間に立ってやり取りしたり、ということをやっています。

税理士の多くは個人や法人のお客様と顧問契約を結び、月額の料金をいただきながら上記の3つの仕事を長期的に行っています。

私たちは税のことをもっと学ぶべき

―税理士は、日々どのような仕事をしているのでしょうか?

人によって本当にさまざまだと思います。
「税金は仕方なく納めるもの」と諦めている方もいれば、税金負担を少なくするためにどんなことでもしたいという方もいらっしゃいます。

―東京都が行った調査によると、税金を負担に感じている人や強制的だと考えている人が多いそうですね。

平成28年度第3回インターネット都政モニター「税に対する都民の意識」アンケート

それは、おそらく「源泉徴収」と「教育」がけ大きく関係しているのかなと思っています。

日本では、小さい頃から学校で税金を教わる機会がほとんどないと思います。
そんな状態で働き始めて、会社でいきなり税金を源泉徴収されるということがあると、税金は仕方なく取られるものなのだな……というふうに思ってしまいますよね。

ときどき、有名人の脱税疑惑や申告漏れなどがニュースになりますが、これも税金に関する知識不足が一つの原因だと思います。
学校で税金をほとんど習わないのが非常に問題です。

そこで、積極的に税金の知識を学んでいくことが必要だと思っています。
会社員の方であれば、自分で確定申告を行うこともできるので、そこで「自分の税金はこうやって計算されるのか」ということを学んでいけば、強制的に取られる負担感は減っていくのではないかなと思います。

近年、副業が流行になっていますが、良いなと思うのが、副業を一定程度(※注1)すると確定申告をしなければいけないところです。

(※注1)年末調整済の会社員の場合、副業による所得が20万円を超えるときに確定申告が必要。

実際に確定申告をしてみて、こうやると税金が減るんだな、節税ってこういうことなんだな、といった仕組みを理解すると、何も知らないで天引きされるよりは負担感が小さくなると思います。

―自分で確定申告をしてみる以外に、税金の知識を学ぶ有効な方法はありますか?

読書がいちばん良いと思います。本当に基本的な入門書で良いです
お金を稼いだら所得税・法人税がかかって、お金をもらったら贈与税・相続税がかかって、固定資産を持ったら固定資産税がかかる、何か消費したら消費税がかかる……という大きなくくりを学んでいくだけでも、税に対する意識は全く違ってくると思いますね。

お金は「自由を得るためのツール」

―ここからは、少し話を広げて「お金」について伺います。
戸村さんにとって「お金」とは何でしょうか?

お金は自由を得るためのツールだと思っています。

私は、結婚・出産のタイミングで一度仕事を辞めた時期がありました。
その時、お金に困ったということはなかったのですが、「自分が稼ぐための経済的な力を何も持っていないのではないか…?」と焦りを感じました。
お金がなければ何もできないというわけではありませんが、お金があるからこそ新しいことに挑戦できるというのはあると思います。
ですので、お金という自由を得るためのツールを獲得するために、自分で稼ぐ力は必要と感じました。

―私たちは、お金に関して最低限どんなことを知っておくべきでしょうか。

「何から始めて良いか分からない」という人におすすめなのが、毎月いくら使っているのか」と「今全部でいくら持っているのかをきちんと知ることです。意外としていない人も多いかなと思いますので。

また、お金についてはバランスが大事かなと思っています。
自分で稼ぐ力と、預金残高などの金融資産と、もう一つ、お金に換算できない社会や人とのつながりの資産、この3つのバランスを取るのが良いのかなと思うんです。

今後は、お金が一定程度しかないとしても、社会的なつながりがあればある程度生きていけてしまう感じがしています。
稼ぐ力や金融資産も大事ではあるのですが、そこだけに集中していると人とのつながりが薄れてきてしまいます。ですので、そういったつながりも意識しながら、自由を手に入れていくツールとして稼ぐ力をつけ、金融資産を得る生き方が良いのではないでしょうか?

2000万貯めるより「仲間を作ったほうがいい」

―お金のプロから「社会や人とのつながりを大事にする」という言葉が出てきたのは意外でした…。

お金の根源は、物々交換から始まった信用の仕組みなので、極端に言えば信用さえあれば生きていけると思います。実際にそこまでは考えていませんが…。

やはり先ほどもお話しした3つ(稼ぐ力・金融資産・社会的つながり)のバランスをとりながら生きていくことが大切かな、と。
特に社会的なつながりを持つスキルは会社などの狭いコミュニティの中だけだと得るのが難しいため、外の世界にも目を向ける必要があります。

ですので、今から老後を心配して2千万円を貯めることにこだわるよりも、信用を蓄積して、仲間を作るスキルを磨く方がいいんじゃないかと思います。
何かあった時、例えばトイレットペーパーがなくなっても、融通しあえる仲間がいれば生きていけますからね(笑)

私も、今後コミュニティを広げていって、異なる価値観をもっている人同士でもうまくやっていけるヒューマンスキルを磨きたいと思っています。

―稼いだり貯めたりしたお金を使うときには、どんなことを意識していればいいのでしょうか?

先ほどお話しした税金の知識は全員必要ですね。お金を稼ぐ方法を知っていても、税金の知識がなければ痛い目にあいます。
実際に税金の計算をしたら、勉強しなければならない知識は自ずと出てくると思うので、必要に応じて身につけていけば良いです。

それから、感情だけでお金を使わない」というのを最近思っています。
不安だけで何かを買い占めてしまったり、必要のない保険に入ってしまったり、または世間を気にして高価な物を買ったり、など。
「当たり前だよね」と言われていることを疑って、自分が何を第一に優先したいか決めてそこに使っていけば、それが賢い使い方なのではないかなと思います

―なるほど。
今お話に出てきた「保険」は、感情にお金を使うことの最たる例で、付き合い方が難しいなと思うのですが……。

そうですね。
ただ、基本的な知識があった上で保険に入るっていうのは全然問題ないかなと思います

例えば、医療保険については高額療養費制度(※注2)があるので、医療費の自己負担額が高額になった時に最大でもこれだけの額を負担すれば大丈夫だ、といったことを知った上で入るのであれば問題ないと思いますね。

(※注2)ひと月に一定以上の自己負担額を窓口で支払った場合に、上限を超えた分が払い戻される制度。

デジタルなお金の選択肢が増えていく

―最後に、戸村さんは将来の「お金」がどうなっていくと考えていますか?

テクノロジーの進歩が進み、個人の信用がデジタルなものになるのは必然的な流れだと思います。
すでに仮想通貨が出てきていますし、お金は物理的なものではなくなるだろうと思っています。

そこから少し先に進むと、例えばその地域だけで通じるデジタル化された通貨ができていって、アメリカの州のような小規模なコミュニティができあがっていくのではないかなという気がしますね。
今は、国が中央集権型で日本円という通貨を管理していますが、中央集権から分散型システムになっていけば、日本円に加えて地域内で流通する地域通貨のようなものができて、お金の選択肢が増えていくのではないかなと思います

戸村涼子さん
戸村涼子税理士事務所 代表税理士
フリービズコンサルティング合同会社 代表社員

企業の経理・財務部門と税理士法人勤務を経て、2016年に独立開業。クラウド会計・スモールビジネスに特化し、税理士の枠にとらわれないコンサルティングや各種セミナーなども実施している。著書に『図解でわかる!税理士が知っておきたいネットビジネスの仕組みと税務』『会計と決算書がパズルを解くようにわかる本』など。

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