他の人と違う生き方をしている人、夢を追い続けている人…。
社会の中に色々な生き方を選択する人が増えた。
そんな人たちは、どのように生計を立てているのか。お金をどのように考えているのだろうか。
他人のお金の価値観、向き合い方について探る連載企画 「おかね」と「わたし」。
第11回は、主にSNSやブログなどのWEB媒体で、日常に関する漫画を描く、やしろあずきさん(30歳)にお話を伺った。
個性的な母親や友達とのやりとりなど、自身の体験をネタにした漫画には、多くの熱狂的なファンがいる。
テレビ番組の企画で、「年収4000万円」だと収入を公開しているやしろさん。だが、「最初は不安だった」と話す。
公開に至るまで一体どんな葛藤があったのだろうか?そしてなぜ公開にいたったのだろうか?
「お金」についての考え方や価値観を、詳しく伺った。
「人生は消去法」WEB漫画家のリアル
―初めまして。やしろあずきさんは、WEB漫画家でありながら執行役員も務めていらっしゃいますが、どのような活動をしているのでしょうか?
公式ブロガーを務めるlivedoorブログ『やしろあずきの日常』にてWEB漫画を執筆することが主な仕事です。
『やしろあずきの日常』では、「万人に楽しんでもらえること」を目標にして、家族や編集者との日常をネタにした漫画を投稿しています。
他には企業からご依頼を頂いたタイアップ漫画を手掛けたり、同人誌の販売なども行っていますね。
漫画家以外の活動は、執行役員としての業務や、テレビなどメディアへの出演も最近では増えています。
―そもそもなぜWEB漫画家として活動を始めたのでしょうか。
絵を描くことだけは飽きなかったからです。
僕はかなりの飽き性なので、向いていない嫌なことからは逃げるタイプなんですね。学校とかも嫌だったら平気で休むし、さぼったりしました。
それでも、学生時代から絵や、漫画を描くことだけは飽きずに続けることが出来たので、これが僕に向いていることなんだと思いました。
僕にとって人生は消去法です。
嫌なことから次々に逃げていくと、最終的に残ったものが自分に適したものだと分かりますから。
ちなみにこのやり方はお勧めはしないです。人にめちゃくちゃ嫌われるので(笑)
あとは僕の場合は、偶然向いていた漫画と世の中の潮流が繋がったのが良かったです。
多分ネットで漫画を描き始めたのと、世の中でSNSが発展してきたのが上手く合っていたからお金を稼ぐこともできました。
そこから人伝でご縁があって、執行役員に就任するお話もいただいて、「役員ってかっこいいいな」と思い、引き受けたりもしました。
そしたら執行役員になったことで社会的な信頼も得られて、そこからWEB漫画家かつ役員という異例の肩書もあり、テレビの出演依頼が入ったりもありました。
努力もありますが、本当に運が良かったと思います。
「収入の公開は不安だった」
―テレビメディアへの出演といえば、Abemaテレビにて収入を公開されていましたね。具体的に収入はどのくらいですか?
年収は約4000万円だと思います。
ブログの収入が主な収益源で、月に300万円ほどあります。
他には、企業からの案件が少なくても100万円程度、多いと300万円いくこともありますね。
会社の役員としての報酬は100万円いくかいかないかくらいです。
―日本では収入を公表することは暗黙のタブーのような気がするのですが、初めて収入を公開する時に不安はありませんでしたか?
最初は本当に不安でいっぱいでした。企画的に収入を公開できないかと言われ、「普通にそんなこといったら炎上するのでは」と思いました。
おっしゃる通り、日本ってそもそもお金の話自体が何となくタブーな雰囲気があると思っています。
収入だけでなく、例えば原稿料がいくらだったのか?も禁句なことが多いですよね。
だから、「収入の公開はあり得ないだろ」「絶対にネットで悪く書かれる」と思いました。
最終的に出演者のみんなで話し合って、「夢を与えられた方が良いだろう」という結論になって公開しました。
いざ公開した後、帰りのタクシーでネット見たら、すぐにまとめサイトに上がっていた時は、大丈夫かなと本当に不安でした。
でも恐る恐る内容を見てみたら、僕を悪く書いている人はほとんどいなかったです。
むしろ前向きなコメントが多くて、「WEB漫画家って稼げない印象だったけど、頑張ればここまで稼げるのか」「WEB漫画家でも年収4000万円もいけるのか、夢あるな」ってコメントがたくさんあって嬉しかったですね。
WEB漫画の業界は有名になるまでは単価も安く、稼げるようになるまで大変な業界なので、新しくWEB漫画家を志す人が少ないです。
でも、WEB漫画業界全体が盛り上がっていくためには、新人たちが成長していくことが必要だと思います。
収入を公開することで、後続がやしろあずきより稼いでやろうと、夢をもって頑張ってくれるなら、喜んで収入を公開します。
あと、意外なところで、僕が公式ブロガーをやっているライブドアの人も、収入を公開して喜んでくれました。
「やしろさんが収入を公開してくれると、私たちがきちんと報酬を支払っていることが証明されるので、ありがたいです。」と言ってくださり、嬉しかったですね。
それからは、「収入を公開しても悪く言うどころか、みんな幸せになってくれるんだな。」とわかって、隠さずにどんどん話していこうと思うようになりました。
あえて収入を公開する理由とは・・・?
―どことなくお金のことがタブーな中で、なぜ悪く言う人が少なかったと思いますか?
前提として、僕が何も悪いことをしていなかったからだと思います。
年収の4000万円は、主に漫画を描くことで稼いでいますし、漫画の内容も絶対に他人を不幸にしないことをモットーにしています。
僕自身、何も後ろめたさも感じませんし、誰も悲しませていません。
多分これが人を騙したり、誰かを傷つけることで稼いでいたら、きっと悪く言われていたと思います。
結局は「その人が何をやっている人なのか?」これが重要なことではないかと思いますね。
あと、日本全体でお金の話をすることがタブーでなくなってきているのでは?と思います。
例えば、京アニへの募金に関しても、多くの人が募金をしたことをツイートしていましたよね。
多分ですが、昔の日本だったら募金したことをツイートすると、偽善者とか悪く言う人もいたと思います。
でも実際は募金をしたツイートを見て、多くの方が「私にも何かできることはないかな?」と前向きに反応する人が多かったです。
これってすごく良い世の中の流れだなと思いました。
例えば、お金以外でも、会社で仕事を早く終えたから帰ろうとする人に対して、「まだ周り仕事残っているのに早く帰りやがって」と批判するのではなく、「羨ましいな。私も頑張って早く帰ろう」と考える人が増えていくと平和ですよね。
他人を批判するのではなく、「私もあの人みたいに頑張ろう」と前向きに考える人がもっともっと増えたら、きっと幸せな世界になると思います。
「無賃労働は悪」 会社員を辞めた理由
―現在は年収4000万円とのことでしたが、最初から順風満帆ではなかったかと思います。以前はどのような活動をしていましたか?
大学を卒業した後はゲームプランナーとして会社員生活を送っていました。
初任給は約20万円くらいの月収で、業界の特色上、裁量労働制なので残業代も無しで夜遅くまで働くことも多かったです。
僕の家庭では、無賃労働は悪として、家族同士でも何かを依頼したら、きちんと対価を払う習慣があります。
家族だから無料で何かをしてもらうなど、相手のことを舐めているのか?という考えでした。
だからこそ会社でありながら、残業代も無しに深夜まで労働をするような環境は考えられなかったですね。
そういう労働とお金への価値観と、あと朝早く起きるのが耐えられず、2社目で独立を決めました。
独立して思ったのは、僕は本当に会社員には向いていなかったんだなということですね。
実際、独立したら明確な「休日」など無いので、ここ2~3年くらいは丸一日仕事をしない日は無い状況です。
やっぱり、仕事の時間が決められているわけではないので、いつでも仕事が出来てしまうので、仕事を考えない日はなかったです。
それでも独立したことで、働きたい時に働いて、寝たい時に寝ることができるようになったので、断然幸せになりました。
多分ですが、自分の時間を自分で管理したい人は会社員に向いていないのだと思います。
「お金は僕にとって精神安定剤でした」お金が無い時代の不安
ここでやしろさんに人生グラフを書いてもらいました。
(黒のラインが年収で、青のラインが人生の満足度です。)
―(人生グラフを見て)独立して収入が下がったのに満足度は下がらなかったのですね。
そうですね。会社を辞めて家にいられることの充実感が何よりも大きかったからです。
後は、会社を辞めるタイミングをきちんと考えていたため、お金の面で大きくは不安を感じないで済んだからですね
会社員と漫画家を兼業していた時から、フリーとして稼いだ収入が一度でも会社員としての収入を超えてから独立しようと決めていました。
おかげで多少は収入も下がりましたが、月20万円くらいは収入があったのが良かったです。
ーそれではお金に関して不安を感じたことはなかったのでしょうか。
いや、もちろんお金に対する不安はありました。
特に同じ頃に実家を出たので家賃も払い始めて、貯金がどんどん減っていったことがこらえましたね。
実はお金がないとめちゃくちゃストレスを感じてしまう人間なので、生活はできるけど、銀行の残高が減っていく状況は、かなりストレスを感じました。
独立してもやっていけると思って独立したけど、本当に会社員を辞めてよかったのかなと思うことは多かったです。
そこから半年から1年経った頃に、年収が1000万円を超え始めて、少しずつお金に関する不安も減り始めました。
最終的には、不動産事業など定期的にお金が入ってくる状態になってようやく銀行残高を気にしなくなりました。
これでもし、自分が怪我などをして漫画を描けなくなったとしても、家族と一緒に暮らしていけると感じたからだと思います。
―お金に不安を抱えていた頃のやしろさんにとってお金とはなんでしたか?
お金は僕にとって精神安定剤のような役割がありました。
お金がないと不安を感じ、お金が貯まることで心が落ち着く気持ちになっていました。
お金によって全てが決まるとは思いませんが、今の時代はお金によって出来ることが限られる時代だと思っています。
特に僕は人一倍お金が無いと不安を感じる人間だったので、20代の当時はとにかくお金が欲しかったです。
でもどうすればお金が増えるのかわからず、表には出しませんが悩むこともありましたね。
「漫画家という枠に囚われず、色々なことに挑戦したい」
―その状況が年収1000万円を超え、不動産事業などを手掛けてから、どう変化しましたか?
まず何より、「独立したけど何とかなってよかった」とほっとしました。
そこからは段々と「このお金をどうやって使うのが正しいのだろうか?」と思うようになりました。
今まではお金が欲しくて、とにかくお金=銀行口座に貯めていくもの、と考えていたので、使い方なんて考えていませんでした。
お金の使い方について方向性が何となく見えてきたきっかけは、著名人たちと仕事で共演するようになったことですね。
僕自身がある程度有名になり始めて、著名な方々と一緒にお話をすることが増えて、彼らのお金への考え方を聞くことが増えました。
そしたら、自分の単純な損得とかにお金を使うような人ってほとんどいなかったんですよ。
損得よりも、自分の世界を広げるためとか、自分が好きなことを活性化させるためなど、何か未来の目標に対して使う人が多かったです。
そんな姿を日々見るようになってから、「僕も自分の好きな目標を達成するためなど、意義のあることにお金を使おう」と思うようになりました。
―具体的なお金の使い方をお伺いしてもよろしいでしょうか?
色々な世界を見て、僕の可能性を広げるために海外旅行に使ったりします。
もちろん海外が好きなのでリフレッシュになったり、ブログでのネタになるという理由もあります。
他には先ほどお話ししたように、京アニへ100万円寄付したことも最近では大きな出来事でした。
今はやっていませんが、法人化したので今後は投資活動なども行おうと思っています。
もっともっと漫画家の枠に囚われず、色々なことに挑戦するためにお金を使っていきたいですね。
―長期的にはやしろさんが目指すゴールはあるのでしょうか?
長期的なゴールというものはあまり考えていません。
今はとにかく現状でやれることにひたすら挑戦しながら、時代の流れに乗っていきたいと思っています。
やっぱりWEB業界って変化が激しくて、長期的なビジョンとかは考えにくいですね。
今の形での「やしろあずき」という存在にも終わりが来るときはいつかあると思っています。
その時がいつ来るのか?どうするのか?は今の段階ではわからないからこそ、今やれることには幅広く挑戦するようにしています。
【おまけ】
やしろさんの自宅を訪れた人に対して、おもちゃの武器で、やしろさんは闘いをやることになっているようです。
せっかくの機会なので、私もお願いして、やしろさんと闘ってみました。
、、、やしろさんは強すぎました(笑)