様々な職業の人へのインタビューを通じて、お金の価値観や向き合い方を探る連載企画 『お金とわたし』。
今回は“ミレニアル世代の経済評論家・お金の専門家”として活躍する横川楓さんにお話しを伺いました。
今の若い世代が抱くお金に関する不安、自身の著書、今後私たちが考えるべきことなど「お金」について語ってもらいました。
お金の大切さを実感した原体験が今の仕事に繋がっている
–「お金の専門家」になろうと思ったきっかけを教えてください。
実家が会計事務所を経営していたという環境もありますが、きっかけとしては2つあります。
私は両親が離婚していて、母子家庭で育ったんです。
はじめは母方の実家の立派な一軒家での暮らして、そのあと母と2人で住むようになった時に、アパートに引っ越したのですが、暮らしも変わり、母子家庭で暮らすことの大変さを味わって、お金の大切さを実感しました。
また、母がお金をやりくりしているのを目の当たりにしていたり、母親がよくお金の話をしていたので、私も自分でお金をどうにかしなきゃと、お金のことに敏感になりました。
でも、周りを見渡すと、お金の知識がある人って本当に少ない。もはや関心がある人も少ない。自分自身のすごく大切なことなのに…。そこに違和感を覚えるようになって、専門家として、お金のことをわかりやすく等身大の目線で伝えていくということの大切さに気付いたんです。
–現在も同世代である「ミレニアル世代」向けに情報を発信されていますが、そもそも「ミレニアル世代」の定義は何ですか?
定義は色々あって複雑ですが、私の著書の定義でいうと、「2000年以降に社会人になった世代」ですね。
ミレニアル世代はお金を使うことに慎重な人が多い
–ミレニアル世代特有の「お金」の課題感はありますか?
やっぱりお金に対する意識としては、将来に対する不安が大きいですね。例えば、年金も払っているけど、その恩恵を受けられてないのでは? など。
–僕も払っていますけど、年金ってもらえるんですか?
制度として破綻することはないので、もらえないということはないと思いますが、金額は減るでしょうね。
そもそも人口が増えることを前提に作られた制度なので、今の人口が減っている社会だと、何か大きな改革がない限り、将来私たちが満足のいく金額をもらえることはないかもしれません。
–払わない人もいるじゃないですか。そういった人に対してはどう思いますか?
年金の支払は20歳以上の義務ですから、払わないという選択肢はだめです。
そもそも、年金は老後のためだけではありません。保険のような役割をしていて、「障害年金」は何か事故や病気でがあって働けなくなったときなど、公的年金として支払われます。
また、もし今自分が死んでしまったら、「遺族年金」として、家族が受け取ることをできる年金もあります。生命保険の代わりようなものですね。
こういった保障は年金保険料を支払わなければもらえないので、年金保険料を支払わないと自分が受けられる保障が減ることになります。
–一昔前の人と比較して、今の若者の金銭感覚に関して感じることってありますか?
お金を使うことに慎重な人が多いです。ミレニアル世代や、今の若い世代は「失われた30年」を生きている世代。
それこそ車を買うのも当たり前じゃないとか、家も買うのも当たり前じゃない。そういう価値観になっていますし、奨学金の問題もあります。二人に一人が奨学金を借りていて、生活費だけではなく、返済にもお金を使っています。
–他にはどういった悩みが多いのでしょうか?
単純に「お金がない」という悩みが多いように感じます。お金がない理由は色々ありますけど、ミレニアル世代はそもそもの収入が少ない中で、社会保険料の増加や、消費税増税や物価の上昇などの影響も受けています。
あとは、「投資はしたいけど怖い」という悩みも多いです。
投資は余裕があるならやるべき。そして、早いほどいい。
–投資、資産運用はした方がいいのでしょうか?
資金に余裕があればやるべきです。でも、投資にはリスクがあります。当然損をする可能性もあるわけですから、無理に始める必要はありません。
例えば、貯金もないのに手取り15万円の人が毎月1万円投資に回すのはよくないですし、そういった人はまずは収入を増やす、生活費を見直すなど手元に数か月分のお給料が残せておけるくらいの余裕資金を生み出すことをまず考えるべきです。
でも、将来的に投資はした方がいいとは思います。
そして、できるだけ早く始めた方がいいのも事実です。社会情勢が自分事になるという意味でも勉強になりますし、早く始めた方が複利のメリットも受けやすくなります。
–今は“コロナショック”で「日経平均が○年ぶりに○○円割れ」、なんてニュースを見ると投資を始めるのが怖くなります。
投資初心者であれば、長期投資を目的とした投資をするケースが多いかと思いますが、長期保有目的で投資をしていると、今のコロナショックのように、買った値段よりも安くなってしまうという瞬間は今後もないとは言い切れません。
ですが、例えば値段が下がっている今その投資商品を売ってしまったら、値段が安いまま利益を確定してしまうことになりますし、このまま永遠に下がり続けるということはないはず。
投資はリスクがつきものです。怖くて手放したい気持ちはぐっとこらえて、逆に余裕があるのであれば、値下がりした普段は高値がついている有名な株を買ってみるなどしてもいいかもしれません。
“リアル”で分かりやすいお金の本を書きたかった
–続いて、著書『ミレニアル世代のお金のリアル』についてお伺いしたいのですが、どういった経緯で執筆されたのでしょうか。
お金に関する本は沢山ありますが、今の現状や知識も知らないまま、最初に読むには難しいなという本が多くて。
女性が専業主婦になることが前提であったり、車や家を買うことが前提だったり、保険の知識もないのに保険に入ることが前提だったり…。
今の価値観と違う部分もあるし、そもそもなぜお金と向き合うことが大切なのかということを知ってもらったり、よりリアルな目線でお金のことを考えてもらいたくて。
–今後も著書を執筆される予定はあるのでしょうか?
お金の知識を広く届ける本はたくさん執筆したいと思いますが、中でも、絵本や漫画など、より身近に若い世代や子供にもお金の知識を届けることができる本はぜひ作りたいと思っています。
学校現場でもお金の教育をするべき
–幼児向けの本を書く目的は何なのでしょうか。
もっと「お金」の教育に力を入れたいと思っているんです。幼児に限らず、小中学生、10代の子にお金の基礎知識を教えるような環境を整える活動をしていきたいです。
先ほど話した「投資が怖い」とかも基礎知識がないから思うことです。小さい頃からしっかりと自分のお金について向き合うことで、投資もそうですが、税金、年金などお金のことは難しいという気持ちのハードルも下がると思っています。
–お金のことって、学校では教えてくれないですもんね。
私は学校でもお金の授業をするべきだと思います。政治とか経済についてはサラッと勉強しますが、それが今やこれからの自分にどういった影響があるかどうかまできちんと教えてくれることはほぼないと思いますし、将来の生活に必要なお金の知識ですらきちんと理解できないまま大人になってしまう。
大人になってからいきなり知るのではなくて、子供のうちから学べる仕組みをちゃんと作っていくべきだと思いますね。
–日本人の金融リテラシーは海外に比べて低いと言われていますが、その原因ってなんだと思いますか。
きちんとした教育がないのもひとつですし、今は生活に余裕がない人も本当に多く、日々の生活での出費に精いっぱいで、お金を増やすことまで目を向ける時間もないという人も多いのだと思います。
経済もずっと上向きで、みんなが裕福な時代ならそれでも良かったかもしれません。年功序列でどんどん収入も増えて、退職金も安定してもらえる。
だけど、今はそういう時代じゃないというのは、悲しいけど受け止めなけれないけないこととです。
横川さんのお金との向き合い方
–横川さん自身、普段はどういったことにお金を使っていますか?
結構普通ですよ。貯金や投資もしていますが、洋服だとか友達と遊ぶ交際費に使っています。あとは、趣味がいろいろあって、オタ活費用にも使っていたり。
–「オタ活」にお金を使うのが普通っていうのが今の世代っぽいですね。
そうそう、今はオタ活にお金を使う人は多いんですよね。オタ活費用といっても、人それぞれですけど、なかには月に何十万円とか使う人もいますから。
–横川さんは、どういったオタ活なんですか?
私はアニメが好きなんですけど、何が出るかわからないトレーディンググッズを好きなキャラクターが出るまで上限買ったりしています。アニメのグッズってそういう形式が多くて…。
あと私は昔アイドルをしていたんですけど、私自身もアイドルが好きなんです。コンサートに行ったり、グッズを買ったりして、その分も結構かかってましたし、今は推しが卒業して洋服のブランドをやっているので、そのブランドの服を買ったりだとか。
好きなコンテンツにお金を払うことは、結果的にはそのコンテンツを作っている人の収入につながるので、とてもいい経済の循環だなと思っています。
–話を聞く限りだと結構お金を使っている印象ですが、しっかり投資はされているんですよね?
はい。よく話題にでるものであれば、つみたてNISAやiDeCo(イデコ)での資産形成もしています。
※iDeCo(イデコ)=個人型確定拠出年金とは、自分が拠出した掛金で資産を形成する年金制度
でも、運用の方法は色々ありますし、私がやっているからと言って、これらがすべての人に合うとは限りません。
例えば、iDeCo(イデコ)を最低毎月5千円を払っても。原則60才まで引き出せない。年間6万円と考えると、決して少なくはない出費です。また、会社で企業型に入っている人なら、あえて個人型に入る必要もないかもしれません。
–余裕があるなかで、最適な方法を選ぶ。若い世代は、資金的に余裕がない人も多いと思うのですが、横川さんが実践する節約術をひとつ教えてくれませんか?
「気軽に手を付けられないお金を作る」のがおすすめです。たとえば、万が一の備えという意味も含めて、いくらかは家に現金をおいておくだとか。
というのも、今の若い人で普通に働いていると、家にいる時間は少ないという人も多いはず。
逆に銀行に預けていると、今はコンビニでもすぐにお金を引き出せてしまいますし、ちょくちょく引き出していると結構な金額になります。
とはいえ、家に大きな現金を置いておくのは危ないので、持ち歩かないキャッシュカードを作るくらいに考えてみてください。
今の時代にライフマネープランは要らない
–若い世代は将来に不安を抱いているわけですが、横川さん自身はライフマネープランを立てられていますか?
私は「何歳で何をするからいくら必要」という考え方では、全然ライフプランは立ててないです。
だって、いつ結婚して子供を産むか、将来子供がどういう学校に行きたいかなんて、今の私自身わからないし、今の私はその時々の気分でそういったライフイベントのタイミングは自由に決めたいし。
○○歳で車を買って、○○歳で結婚して、○○歳で子供を私立に入れて・・・、その通りに行く人なんて滅多にいませんよね。
今は「結婚」ひとつとっても子供を産まないことを前提とした結婚もあれば、同性婚をする人だっている。
あとは、いわゆるライフイベントというと、結婚、子育て、家の購入といったポジティブな話題ばかりが起こるライフイベントとして組み込まれていて、不妊治療や奨学金の返済やなどセンシティブな話題は含まれていなかったりもします。
ライフスタイルが多様化しているから、何歳で結婚して子供を産んで、家を建てて、老後までに旅行は何回行くというようなことが最初から組み込まれているテンプレートのエクセルのように考えること自体が難しいと思います。
–すごく意外です。綿密にプランを組んでいるのかと思っていました。
先ほどお話したように、今はいろいろな人生の選び方がある。エクセルで作ったライフプラン通りにいく人がどれだけいるのでしょうか。
何歳で何をするためにいくら必要なんだという考え方ではなく、自分が将来思い描くライフイベントに対して、それぞれの事象ごとに知識や情報を得て、いくら必要なのかマネープランを考える必要があります。
自分の人生について自由に考えられる時代だからこそ、きちんとお金を貯めていかなければなりません。
–「自由だからこそ、お金は貯める必要がある」とはどういうことでしょうか。
お金は選択肢を増やすものです。お金があればできることが増えるし、ないとできないことが増える。
自由にやりたいことをしたいなら、それだけのお金は必要なわけです。豪華な結婚式をしたい、好きな土地の好きな家に住みたい、子供に習い事をたくさんさせてあげたい。どれも、お金がなければすることができません。
そして、選択肢を増やしていくためにも、収入を増やしたり、投資をしたり、申請してもらえるお金をしっかりともらったり、お金の知識や仕組みについて敏感になる必要があります。
お金の知識は学校でも満足に教えてもらえず、税金、年金のような誰しもが関係のあることから、保険、投資など自分でお金を払っていくものも、将来の自分に必要な知識は自分で知識をつけなければ、損をしてしまうこともたくさんあるのです。
先行きの不安な時代が続きますが、ミレニアル世代はデジタルネイティブいう強みや、キャッシュレスの普及やFintechなど新しいサービスがたくさん誕生する中で生活し、それを活用してより便利にお得に利用していくこともできます。
中にはお金がないことが悩みで、お金のことを考えたくない人もいるかもしれません。しかし、お金に関することはだれも教えてくれないし、助けてくれないのです。
自分自身で「お金」としっかりと向き合っていくことが、選択肢を増やす一番の方法です
–なるほど。ありがとうございました。